Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

Lexicon

ベルトラン『夜のガスパール(Gaspard de la nuit)』1842

この稿本には、諧調と色彩のおそらくは新しい技法が數かずおさめてあるのです。 アロイジウス・ベルトラン(Aloysius Bertrand)による詩集。「散文詩」とはすなわち、無韻無脚でありながら詩的律動を感じさせる文章のことを言うが、ベルトランは『夜のガスパ…

リラダン『アケディッセリル女王(Akëdysséril)』1885、再読

ヴィリエによる中篇小説。初出は1885年La Revue contemporaine誌上。『アクセル』や『トレードの戀人』と同様の主題を持つ。すなわち「或る魂が至高の完成に到達し、もはや下降以外にあり得ない」場合、至福の絶巓に於て自ら命を絶つことは美徳足り得るので…

20221013日記

つまらぬ、精神を消耗する、だが私に糊口を許す有難い仕事を終えて帰宅。郵便受けに神からの祝福。 かねてより垂涎していた書物、『リラダン=マラルメ往復書翰集』森開社, 1975が届いた。森開社というのは仏文学を専門とし奢侈な装幀で有名な道楽の出版社で…

『地獄に堕ちた勇者ども(The damned)』1969

ルキノ・ヴィスコンティ監督作。 製鉄一族である男爵家。当主が殺害されequibiliumの崩れた一家の、醜い権力闘争を描く。デカダンな風俗描写がその醜さを際立たせるが、この至高の腐敗に、美を見出す人もいるのだろう。渋澤龍彦氏あたりは歓びそうだ。 私が…

リラダン『奇談集(Histoires insolites)』1888

作者の死の前年に刊行、ニ十篇を纏めた小品集。その前半はエドガー・アラン・ポーを彷彿とさせる奇譚が(そもそも本題からしてポーのHistoires extraordinairesに案を得たものとする考察もある)、後半はカトリックのモチーフ、例えば施し、戦闘的カトリック、…

ドビュッシー『フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ(Sonate pour flûte, alto et harpe)』1915

www.youtube.com ドビュッシーによる三楽章から成るソナタ。フルート、ヴィオラそしてハープの三者の組合せは他では知らぬ。特に第二楽章、ヴィオラが良い味を出している。この曲は彼の死の3年前に書かれた。病に臥す日々の中で作曲されたからだろうか。その…

モーリアック『イエスの生涯(Vie de Jésus)』1936

www.youtube.com フランソワ・モーリアック(François Mauriac)が遺したイエス伝。共観福音書(特にルカ伝福音書)と第四福音書とを豊富に引用し、彼の解釈を加えて、イエスの生涯が語られる。解釈と云えば、殊にイスカリオテのユダの心理に関する記述が独創的…

リラダン『アクセル(Axël)』1890 再読

余暇を利用してヴィリエ・ド・リラダンの『アクセル』を再読。ヴィリエの精神的な遺書とも呼べる本作品は、至高の理想主義に彩られ、至純の美に耀く。 ledilettante.hatenablog.com さる公爵家の最後の娘サラ・ド・モーペールは、年古る尼僧院にて、修道の誓…

『天使も許さぬ恋ゆえに(Where angels fear to tread)』1991

フォースターの小説『天使も踏むも恐れるところ(Where angels fear to tread)』を原案とする映画。チャールズ・スターリッジ(Charles Sturridge)監督作。他のフォースターの小説同様、異なる人間が互いを理解する可能性と困難とを描いているが、本作にみられ…

リラダン『イシス(Isis)』第一部 1862

あなたがあの女の中で愛していらっしゃるものは、実はあなたの願望の実体なのです。『未来のイヴ』 ヴィリエが二十四の時の作品。第二部以下は原稿が失われたのか、未完に終わったのか不明。かのボードレールがこの書について賞賛を送ったことが判っているが…

リラダン『残酷物語(Contes cruels)』1883、その2

ledilettante.hatenablog.com ledilettante.hatenablog.com マーラーの第7番を聴きながら、『残酷物語』再読。「ヴェラ」や「サンチマンタリスム」、「見知らぬ女」など気に入っている小品は幾度となく読み返しているのであるが、この度は全体を通して。 『…

ドールヴィイ『デ・トゥーシュの騎士(Le Chevalier Des Touches)』1864

バルベイ・ドールヴィイらしい「語り」による物語小説。 ledilettante.hatenablog.com バルベイの故郷ノルマンディー、大革命の時代が舞台。 実在するふくろう党(レ・シュワン)の騎士ジャック・デトゥーシュ(Jacques Destouches de La Fresnay)の英雄譚に着…

20220422日記

晴れ。暑い。伊勢丹で靴を買う。 絲の如く 麻の如く尠くとも(すくなくとも)holocaust 燔祭(はんさい) 猶太人虐殺の意で使われるが、原義は生贄を火焙りにして神に捧げる行事のこと。いや、同義か。ゆくりなく 思いがけなく、突然に心緒(しんしょ) 心の中で思…

ゴーチエ『金髪をたずねて(La Toison d'or)』1839

ああ!気の毒な青年よ。きみの蔵書を火に投じ、絵をさき、塑像をくだき、ラファエルやホメロスやフィディアスを忘れてしまいたまえ。おろかしいきみの情熱はどういう効果をもたらすのだ。謙虚な心をもって、きみの愛するものを愛したまえ。 ゴーチエの短篇小…

リラダン『未来のイヴ(L'Ève future)』1879

御冗談でせう!「美」といふものは「藝術」と人間の霊魂の問題です! 1880年のこと『ル・ゴロワ(Le Gaulois)』紙上にて、公に発表された。赤貧の貴族ヴィリエ・ド・リラダン唯一の長編小説。反ブルジョワ精神の結晶。私が読んだのは、東京創元社出版、斎藤磯…

『ダントン(Danton)』1983

アンジェイ・ワイダ(Andrzej Wajda)監督によるフランス・ポーランド合作の伝記映画。時は大革命期、ロベスピエールによる恐怖政治の最中、ダントン処刑までの数週間を描く。配給はフランスのゴーモン社。セザール賞を受賞。 なんとも特徴的なのは、演者たち…

『ノートルダムのせむし男(The hunchback of Notre Dame)』1956

『寄宿舎; 悲しみの天使(Les amities particulieres)』のジャン・ドラノワ監督作。ヴィクトル・ユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』を原作とする、古き良き時代のフランス映画。せむし男を演ずるのはアンソニー・クインズ、エスメラルダを演ずるのはジーナ・…

『刑事フォイル』SE02

EP01 Fifty ships容疑者の所属する組織、持てる影響力、何を動員することが可能かなどに気を配ること。定量的に物事を判断すること。 EP02 Among a few 犯人しか知り得ない事実は何かを把握すること。 EP03 War Games今日も推理を当てた、嬉しい。事件を紐解…

『刑事フォイル; 兵役拒否(A Lesson in Murder)』SE01EP03

因果関係の難しいエピソードであった。そもそも見落としが多い。手がかりが見えぬことに動揺し、基礎をも忘れてしまった為、成す術が無かった。悔しくて今夜は眠れない、もう1話見るか、、、。 "Eliminate the impossible and whatever remains however impr…

『刑事フォイル; 臆病者(The White Feather)』S01E02

ファシズム団体の会合が開かれているホテルで、ホテルオーナー夫人が銃殺された。夫人はファシズムに傾倒していた。宿泊者リストにはユダヤ人。外には怪しい人影。 本ケースは、視聴者にフォイルよりも多くのヒント(しかも決定的な)が与えられていたから、割…

『刑事フォイル; ドイツ人の女(The German Woman)』S01E01

She was only a German woman. 出版社の女性から、『刑事フォイル(Foyle's war)』なる英国のドラマを勧められたのであるが、これが中々面白い。名前の通り推理物。1940年戦禍の英国が舞台、話には戦争が大きく絡む。まだシーズン1の1話しかみていないが、殺…

2022.01.02日記

イギリス文学とは何か? アメリカ文学とは何か? 私には説明がつかない。世間の関心は薄い様に思われる。その証左となるかは分からぬが、岩波の『○○文学案内』シリーズも、英米文学についてはカバーしていない。 私にしても、シェイクスピア、エドガー・アラン…

2021.11.17日記

快晴、暖かい。六義園へ行く。風流なことなんて何もない。こんなものを有難がって、東京の人間の田舎臭さにはほとほと呆れる。 夜は『タンホイザー』を聴いた。 怯懦(きょうだ) 臆病で気の弱いこと爾余(じよ) それ以外端倪(たんげい) 物事の成行を見通すこと…

リラダン『アクセル(Axël)』1890

斎藤磯雄氏譯、東京創元社。ヴィリエの理想主義的な夢と中世趣味が見事に結晶した詩劇。ヴィリエの死後に出版された。 ledilettante.hatenablog.com 青春から逃れ、シュヴァルツヴァルトの古城で現身と永劫世界の間に揺れる男。美しき姫サラ(レオン・ブロワ…

2021.08.28日記

惨めな思いをしてまで、義理のために生き続ける必要があるか 悪鬼羅刹(あっきらせつ) あらゆる恐ろしい魔物ratiocination 推論ポンス(pons) ポンチのこと素馨(そけい) 植物、白い花を咲かせる骨相学(こっそうがく) 頭部の骨相をみて、その人の性格・運命を判…

2021.08.10日記

2021年の夏が私に残すものは 蹌踉(そうろう) よろめくこと易わる 変わるaccomplished 嗜みを身に付けたvexed いらいらして聟(むこ) 婿当代浮薄見晴るかす はるかに見渡すこと凭れる(もたれる)星辰(せいしん) 星々のこと悉皆(しっかい) 残らずすべてhitherto …

ドールヴィイ『罪の中の幸福(Le bonheur dans le crime)』1871

『魔性の女たち』を構成する短篇の1つ。観察者たるドクターが、パリの植物園(Jardin des Plantes)で遭遇した美しい対の男女の罪を、同行者に語って聞かせる。美が罪に勝利するという一例。 私はもうユーラリィではありませんわ。私はオートクレール、彼のた…

ユイスマンス『彼方(Là-bas)』1891

現代世界に厭いているデュルタルが、ジル・ド・レー男爵の研究を通して、超自然的世界をみる。彼は中世キリスト教の世界を理想視し渇望するも、信仰を持つには至らない。ジル・ド・レーの一代記として読んでいて面白いが、物語としてはどうか。シャントルー…

ラ・ファイエット夫人『クレーヴの奥方(La Princesse de Clèves)』1678

描写が殆ど恋愛心理の明晰な分析に集中しており、心理小説の祖と云われている。ラ・ファイエット夫人が生んだ、新たな近代心理小説の伝統は、ラクロ『危険な関係』、コンスタン『アドルフ』、ラディゲ『ドルジュル伯の舞踏会』等に引継がれた。また、『クレ…

リラダン『殘酷物語(Contes cruels)』1883

『残酷物語』は、ヴィリエ・ド・リラダン伯爵が1883年まで種々の雑誌に発表してきた作品に推敲彫琢を施し、そこに未発表の4篇を加えて出版された短篇集である。 「ヴィリエは夢と諷刺の両者から成り立っている」とレミ・ド・グールモンは言う。この『残酷物…