Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

2018-01-01から1年間の記事一覧

待降節

2日、待降節を迎えた。 神が人の子をお遣わしになられたことへの感謝、 そして私達の主イエス・キリストが私達を裁きに来られることへの希望を 強く心に抱いて降誕祭への準備をしよう。 25日、心の底からGloriaを謳うことができますように。

ブラームスの愛(2)

1853年9月ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムの紹介でブラームスはシューマン夫妻の家庭を訪ねた。シューマンはブラームスの楽才を認め、友情の手を差し伸べた。ブラームスはシューマンのはからいに深く感謝し、彼に対し「わが主」と呼び掛けている。ブラ…

ブラームスの愛(1)

愛を1本の線で表現するのならば、その極には肉と宗教がある。崇高な愛は宗教の形を取り、それは真の意味で利他的なイエスの愛に限りなく近い。 ブラームスといえば、バッハ、ベートーベンと並んでドイツの3大Bと称される大作曲家であり、厳粛なイメージに満…

「La Nuit」『コーラス(Les Choristes)』2004より

www.youtube.com 『春の凱歌(La Cage aux rossignols)』1945と、そのリメイク映画『コーラス(Les Choristes)』2004の挿入歌 Oh nuit, viens apporter à la terre夜よ、この地にもたらしておくれLe calme enchantement de ton mystèreきみの秘密が織りなす穏…

典礼聖歌352番『聖霊の続唱』

www.youtube.com みなさんは聖霊に祈りを捧げていますか、とシスターは仰った。なるほど、忘れがちである。本日紹介する『聖霊の続唱(Veni Sancte Spiritus)』は、復活祭から数えて50日目、五旬節、ペンテコステの日に歌われる続唱(セクエンツィア)。 聖霊来…

『シャーロック・ホームズの事件簿』から「三破風館(The Adventure of the Three Gables)」

www.youtube.com "The Three Gables(三破風館)"はThe Case of Sherlock Holmesに録されている一エピソード。動画はグラナダTV版(以下グラナダホームズ)のもの。 グラナダホームズは原作への忠実さでその名を知られているが、実のところ多数のエピソードに脚…

『久しく待ちにし(Veni, veni Emmanuel)』

www.youtube.com 中世に起源を持つ聖歌。19世紀にイングランド国教会の司祭によって英譯が為され、広く普及した。待降節第3主日に歌われることが多い。"Gaude"の一語が「悦びの主日」にふさわしいから。 Veni, veni Emmanuel.来ませインマヌエルCaptivum sol…

ヘンリー・パーセル『ディドとエネアス(Dido and Aeneas)』1689

www.youtube.com 17世紀イングランドの作曲家ヘンリー・パーセル(Henry Purcell)によるオペラ。フーガ調の序曲が厳粛に響く。 英国人の作曲で、且つ英語のリブレットを持つオペラは、パーセル以降ブリテンの時代までないのではないか。真の意味での「イギリ…

『愛国行進曲』1937

www.youtube.com 愛國行進曲は1937年、支那事変の勃発と国家総動員法が制定された年に国威発揚を狙い作られた国民歌。歌詞は公募。 映像は1943年の映画『音楽大進軍』のフィナーレ。在りし日の帝国劇場。ソプラノに瀧田菊江、テノールには藤原義江を起用。 …

『God rest ye merry, gentlemen(よのひとわするな)』

www.youtube.com イングランドのクリスマスキャロル。16世紀には、既に歌われていたという。歌詞に用いられる"tidings"の語が何とも面白い。もともと「"tide"=潮」は「"time"=時」と同義の単語であり、これが"tidings"の形になることで「便り」という意味に…

「事実は小説より奇なり」

「事実は小説より奇なり」。この諺はバイロン男爵の叙事詩"Don Juan"の1節に由来する。スペイン語で好色家を意味するドン・ファン。モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」はこれの伊太利語形である。 Don Juanの14編101節 'Tis strange - but true; fo…

遠藤周作『沈黙』1966

キリスト禁制が敷かれていた日本に潜入したポルトガル人司祭の受難を描いた作品である。その名をロドリゴというが、彼は日本人信徒を襲う残忍な拷問とそれに伴う彼らの「殉教」をみる。殉教といえば祝福のうち天に召される幸福であるが、彼の目にはそれが「…

ソビエト民謡『タリャーノチカ(тальяночка)』

www.youtube.com ソビエトロシアの民謡。作曲されたのは第二次大戦時、歌詞の背景にも戦争がある。 曲名の「タリャーノチカ」とはアコーディオンのような楽器のこと。指小辞(diminitive)となっているので、「小さなアコーディオン」と云う意味合いか。ロシア…

霞が関に於ける「官庁集中計画」について

諸國の外務省は、屡々その所在地名で呼ばれる。英国の「ホワイトホール」、フランスの「ケ・ドルセー」、ドイツの「ヴィルヘルム・シュトラーセ」といった具合に、日本の場合は「カスミガセキ」である。 日本の行政を司る機関が集積する霞が関であるが、これ…

讃美歌21 454番「愛する神にのみ」

久しぶりの更新となる。授業が始まると忙しくていけない。 紹介するのはGeorge Neumark(1621-1681)の "Wer nur den lieben Gott läßt walten"。ノイマルクはドイツ中央部ランゲルザルツァの出身、詩人であり讃美歌の作曲家であった。本作品が書かれたのは164…

初期近代英語をみる2; 「New heaven, new warre」

以前の記事で扱ったRobert Southwellの詩"New heaven, new warre"について、Nancy Brownの編纂による"The poems of Robert Southwell, S.J.(1967)"の中に、それのより確かな文献を発見した為、該当部分をここに掲載する。編纂に辺り彼が用いた文献は16世紀,1…

ミハイル・グリンカ『皇帝に捧げた命(Жизнь за царя)』1836

『皇帝に捧げた命(Жизнь за царя)』はミハイル・グリンカ(Михаил Иванович Глинка)が作曲したロシア・オペラである。ロシア情緒が溢れるこの作品は、ロシア国民主義音楽の先駆的存在と云えよう。専制・正教・国民性からなる「官製国民性」の原理と合致する作…

シェイクスピア「ソネット20番(Sonnet 20)」

シェイクスピアのソネットには、Fair Youth即ち美男子に贈られた詩が多くあるが、殊にこの20番は露骨だ。 20 A woman’s face with nature’s own hand painted君が持つのは女神の描いた女の顔 Hast thou, the master-mistress of my passion;男であり、女でも…

ヴェルディ「ありがとう、親愛なる友よ(Mercè, dilette amiche)」『シチリア島の夕べの祈り(I vespri siciliani)』より

オペラ『シチリア島の夕べの祈り』より、ソプラノのアリア「ありがとう、愛する友よ(Mercè, dilette amiche)」。ボレロ調の音楽は劇舞台パレルモのイメージにぴったりだ。太陽輝くティレニア海の情景が目に浮かぶ。イタリアを愛するヴェルディにしか書けない…

「Roses are red」『マザーグース』より2

エドマンド・スペンサー(Edmund Spenser)の詩を、現在私たちがよく知る形に近づけたのはジョセフ・リトソン(Joseph Ritson)だと先日述べた。彼が遺した童謡集、『ガートンおばあさんの花環(Gammer Gurton's Garland)』1784から、その一節をみてみよう。 The …

「Roses are red」『マザーグース』より

イングランドの童謡(nursery rhymes)集から、甘い恋の詩を取り上げる。 Roses are red, Violets are blue,Sugar is sweet and so are you. バラは赤く、スミレは青い砂糖は甘く、そしてあなたも この詩はしばしば、バレンタインデーの贈り物に添えられるのだ…

ケルビーニ『メデア(Médée)』1797

www.youtube.com 『メデイア』は古典音楽から初期ロマン派音楽への過渡期に活躍した伊太利の作曲家、ルイージ・ケルビーニ(Luigi Cherubini)のオペラ。初演は1797年、パリにて。 古典の厳粛さを保ちながらも、モーツァルトとは明確に異なる、人間の「感情」…

世界首都ゲルマニアについて

ヒットラーが計画した首府の改造。都市設計はベルリン建設総監、後の軍需大臣であるアルベルト・シュペーア(Albert Speer)が担当。 ベルリン中央駅から国会議事堂(Große Halle)の南北を貫く5kmのメインストリートに沿って政府機関ビル、大企業本社、各国大使…

『ヴェニスに死す』に描かれた美

"Der Tod in Venedig." 和訳は『ヴェニスに死す』。名訳だ。堅物の男が、強烈な生の虜となり自制を失い滅びる。『カルメン』や『痴人の愛』と同様のテーマと言えるかもしれない。しかしこれら作品と決定的に違うのは、『ヴェニスに死す』からは「肉の香り」…

ブリテン「この幼子は(This little babe)」『キャロルの祭典(A Ceremony of Carols)』1943

先日扱った「子守唄(Balulalow)」と同じく、ブリテン『キャロルの祭典』より。地獄を思わせる暗いアプローチ。音楽にある激しきポリリズムは、イエスとサタンの戦い。我々に対しアンガージュマンを呼びかける。歌詞は16世紀イングランドの聖職者ロバート・サ…

ブリテン「子守歌(Balulalow)」『キャロルの祭典(A Ceremony of Carols)』1943

ブリテンの『キャロルの祭典(A ceremony for Carols)』の中の一曲である。ソロを担当しているのは、エドワード・バロー(Edward Burrowe)。著名なボーイ・ソプラノ、 歌詞はスコットランドの詩人ウェッダーバーン兄弟(James Wedderburn, John Wedderburn, Rob…