Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

三島由紀夫『わが友ヒットラー』

レーム どんな時代になろうと、権力のもっとも深い実質は若者の筋肉だ。それを忘れるな。 政治との訣別。「過去の夢」に対する殉教者のような従順さ。レームのノスタルジアは否定され、彼は破滅する。シュトラッサーの予言通りに。 クルップ きこえるか、ア…

日記2020.5.28

街で初恋の人を見かけた。欅の木陰に置かれた椅子に座り、バスを待っていた。 相変らず美しかった。長い睫毛に物憂げな瞳、そして黒い髪。見間違えようがない。その人をみつけた時の僕は、動揺してひどい阿呆面をしていたと思う。声を掛ければよかった。「あ…

川端康成『伊豆の踊子』

かつて『伊豆の踊子』を読んだとき、退屈したのを覚えている。 川端作品を楽しめるようになったのは、本当に最近のことだ。少しは僕も成長しているのかもしれない。 優しい小説だ。 踊子の言うのが聞こえた。「いい人ね」「それはそう、いい人らしい」「ほん…

三島由紀夫『午後の曳航』第二部 冬

夢想の中では、栄光と死と女は、つねに三位一体だった。しかし女が獲られると、あとの二つは沖の彼方へ遠ざかり、あの鯨のような悲しげな咆哮で、彼の名を呼ぶことはなくなった。 三位一体が崩れても、栄光=x=死の式はそのまま残ることになる。 三島が「死」…

三島由紀夫『午後の曳航』第一部 夏

マドロスのドラマだが、登場人物がそれを否定したがっているという面白さ。 登が母の部屋をのぞき見ることから物語は始まる。三島は「のぞき見」が好きなのだろうか。『暁の寺』でも本多が中年女性とシャムの少女のレズセックスを「のぞき見」をしていた。『…

三島由紀夫『春の雪』

言葉や描写の優美さで云えば、三島の作品中随一だろう。はじめて読んだのは忘れもしない高校3年生の冬、友人が古書店で薦めてくれたのがきっかけだ。今度で4度目になる。滅びゆくものが描かれた作品。情熱に憑りつかれた若者、古風の優雅、維新の気骨、すべ…