Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

リラダン『イシス(Isis)』第一部 1862

あなたがあの女の中で愛していらっしゃるものは、実はあなたの願望の実体なのです。『未来のイヴ

ヴィリエが二十四の時の作品。
第二部以下は原稿が失われたのか、未完に終わったのか不明。かのボードレールがこの書について賞賛を送ったことが判っているが、その書簡もまた残ってはいない。

聊か短絡な気もするが、若きヴィリエの所信表明とでも云うべきかな、後年になると二重三重の諷刺を弄して、その真意を容易には掴ませない韜晦の趣味が出てくるところ、本作に於ては彼の思想は明瞭に示されているように思う。

チュリヤ・ファブリヤナ侯爵夫人は「永遠の女性」。無限に美はしく、天を支へる柱の如く強く、智天使らの上に君臨する者の如く全智にして、神そのものともなるべき女性。ストラリイ・ダンタス伯爵は「流謫者」。繊細な感受性、峻烈な純潔、劉喨たる抒情味、絶大の勇気、精妙な審美眼を具えた貴族。

第一部に於ては、両者の魂の交わりの端緒しか描かれていないのであるが、その始まりを以てして、永遠を感じさせるには十分である。

ある女性を神格化して崇拝することは男の夢だ。この場合、対象の女性が具体的・客観的に秀でた特質を有していることは必要条件ではない。男が愛するものは、あるがままの女の姿ではなく、創造した思考の人物である。女は亡霊となり、没我的に、その思考の反映体となっていればよい。つまり黙って顔を傾け、その表情に微笑を湛えていればよい。なんという自己中心主義! だがこれがダンディの恋なのである。

 

斑馬 シマウマ
烏滸(をこ) 馬鹿げている有様
御幣(ごへい) ぬさのこと

侏儒(しゅじゅ) こびと
都府(とふ) みやこ
清士 私欲の無い人
弑する(しいする) 目上の者を殺すこと
増上慢 高ぶった慢心のこと
秋(とき)
臺(うてな) 物見台
笞(むち)
迴かなる(はるかなる)
劉喨(りゅうりょう) 音がさえてよく響く様
稀世(きせい) 世にまれなほど優れていること
瑕瑾(かきん) 辱め
曲学阿世(きょくがくあせい) 真理にそむき時代の好みにおもねる
暴戻(ぼうれい) あらゆる道理に反する行為をすること
スティックセニョール ブロッコリーの一種。細長く甘い。
笞罪(ちけい) 鞭打ち刑
余喘を保つ(よぜんをたもつ) かろうじて続いている
イグナチオ・デ・ロヨラ イエズス会創始者の1人にして初代総長。
サザンベル アメリカ南部の理想的な美人
マックス・デーロー(Max Daireaux) 文学者。著書にリラダン研究あり。
森厳(しんげん) 秩序正しく厳かなさま。
鏤める(ちりばめる)
鏤刻(ろうこく) 文字をきざみ文章にすること
瑰麗(かいれい) 非常に美しいこと。瑰麗無比
糊口をしのぐ(ここうをしのぐ) 暮らしを立てること
やおら ゆっくりと動作を起こすさま
来し方(こしかた) 過去
sine qua non あれなければこれなし(必要条件)
しじま 無言
くしび 神秘