Mon Cœur Mis à Nu

But, darlings, the show must go on.

Films/Dramas

ヴァレリオ・ズルリーニ『タタール人の砂漠(Il deserto dei Tartari)』1976

今月は東劇で『娘道成寺』が上演されるので、是非足を運びたいと思う。またベッリーニの『夢遊病の女』も、気が乗れば見ようと思う。 ズルリーニ監督作。ブッツァーティの同名小説の映像化。読書家にとってすれば、やはり小説を下敷きにした映画が一等面白い…

クエンティン・タランティーノ『イングロリアス・バスターズ(inglourious Basterds)』2009

伊勢丹に依頼していた傘の修理が済んだ。前に記事を書いてから何があったかと思い返して見る。金木犀をはじめ、名残の花の香は絶え絶えになり、揺落の季節に入らんとする折、私の目を引いたのは、花と見紛う程に紅の、ハナミズキの葉であった。 タランティー…

市村崑『破戒』1962

過日、仕事で関西に伺った折、シンポジウムに大学の指導教授も来ており話をした。「ところで君は美濃の出身であったね」と仰るので、そんな些事を覚えている学者の記憶力に感心しつつ、その問いの真意を尋ねた所、『破戒』の作者、島崎藤村の生まれた中津川…

ジャン=リュック・ゴダール『軽蔑(Le Mépris)』1963

「お金がいるでしょう」「なぜ、そう思うのです」「美くしい奥方をお持ちと聞いています」 死は物語の結末にならない。(フリッツ・ラング) 諸君は知識を求め徳に従うべく生まれたのである。(ダンテ『神曲』) ゴダール監督作、新文芸坐で鑑賞。BBことブリジッ…

ロベール・ブレッソン『白夜(Quatre nuits d'un reveur)』1971

晴、秋分。心地よい休日。丸の内でスエードの黒靴を買った、先日のフランネルスーツと合わせて着用する。 ロベール・ブレッソン監督作。早稲田松竹で鑑賞。最後にブレッソンを見たのは4年前、同じ早稲田松竹でのことだった。思えばこの名画座には随分と世話…

ソフィア・コッポラ『ロスト・イン・トランスレーション(Lost in Translation)』2003

ソフィア・コッポラ監督作。"Lost in Translation" は言語による意思疎通の失敗を意味する訳だが、日本を訪れた2人の西洋人が遭遇したのは、言語の壁に留まらない、日本社会の異質さであった。80年代から90年代にかけて、日本の閉鎖的市場・保護主義政策を揶…

テレンス・マリック『天国の日々(Days of Heaven)』1978

テレンス・マリック監督作。パラマウント配給。音楽は『ニュー・シネマ・パラダイス』のエンニオ・モリコーネ、映像はトリュフォー、ユスターシュ、ロメールのお抱えカメラマン、ネストール・アルメンドロス。要は、職人の仕事である。 米国南部の労働者たち…

セルゲイ・パラジャーノフ『火の馬(Тіні забутих предків)』1965

晴、立秋を迎えている。このつまらぬ破滅的な生活はいつまで続くのか。 セルゲイ・パラジャーノフ監督作。原題ままに和訳すれば「忘れ去られた祖先の影(Shadows of Forgotten Ancestors)」となる。ウクライナの少数民族フツル人の美くしい青年の男女、イヴァ…

李相日『国宝』2025

晴、ここ数日は涼しく過ごし易い。 池袋東宝に、知人の誘いで今流行の映画『国宝』を見に出かけた。私ははじめ『海が聞こえる』のリバイバルを所望したのであったが。人混みに耐えて新作映画を見に行くなんてことは、恐らく高校生の頃以来だろう。一人では決…

フランソワ・トリュフォー『恋のエチュード(Les Deux anglaises et le continent)』1971

フランソワ・トリュフォー監督作。この頃はジャン・ピエール=レオが出演するトリュフォー作品の鑑賞が続いている。学生の頃から、トリュフォーは可成の数を見た筈だが、「お気に入りの監督」とはならない。彼は卓越した技能を有する職人で、音楽にも造形が深…

フランソワ・トリュフォー『夜霧の恋人たち(Baisers volés)』1968

フランソワ・トリュフォー監督作。相変わらず冴えないアントワーヌ・ドワネルの『大人は判ってくれない』『二十歳の恋』に続く3作目。原題は"Baisers volés"で「盗まれたキス」。昔の洋画にありがちな脈絡とセンスに欠けた邦題である。 モンマルトルの長階段…

ジャン=ガブリエル・アルビコッコ『別れの朝(Le Petit matin)』1971

ジャン=ガブリエル・アルビコッコ監督作、彼はヌーヴェルバーグの一人。アンテラリエ賞を受賞したクリスティーヌ・ド・リボワールの同名小説(1968)の映像化。音楽はフランシス・レイ。 映像に酔う。陶酔ではなく悪酔い、音がやかましい所為もある。随分後年…

フランソワ・トリュフォー『二十歳の恋(L'amour à 20 ans; Antoine et Colette)』1962

フランソワ・トリュフォー監督作、『大人は判ってくれない』に始まる、いわゆる「アントワーヌ・ドワネルもの」の2作目。 パリ、ローマ、東京、ミュンヘン、ワルシャワの5都市における『二十歳の恋』をそれぞれに描いたオムニバスの仏篇であるが、面白い企画…

ルキノ・ヴィスコンティ『異邦人(Lo Straniero)』1967

ルキノ・ヴィスコンティ監督作、カミュの『異邦人(L'Étranger)』(1942)の映像化作品。アルジェの人々がイタリア語を喋喋するのには違和感を覚えるが、多感なイタリア人の中にあっては、心ここに在らずのムルソーの異端さが際立って、反って良いかも知れない…

ジョー・ライト『プライドと偏見(Pride and Prejudice)』2005

ジョー・ライト監督作。ご存知ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』の映像化、キーラ・ナイトレイが出演。コリン・ファースが出演しているBBCドラマバージョン(1995)と比較して風刺がマイルド。それに男が女々しくなった。これも時代の趨勢だろうか。愚鈍…

20250404日記_桜

牢晴、小石川植物園へ。あはれをみなごに花びらながれ、か。彼女はをみなごと呼べる歳でなく、私とて薹が立つ齢であるが、私たちには一種の子供つぽさがある。多分私たちほど、清らかな面持ちで桜を見る大人はなかつた。桜は美くしかつた、世を見直す程に。…

クロード・ルルーシュ『愛よもう一度(Si c'était à refaire)』1976

クロード・ルルーシュ監督作。カトリーヌ・ドヌーヴに、アヌーク・エーメも出演、後者にとつては外れ役な気がした。 恋人が殺人を犯してしまつたが為に、青春を塀の中で過ごす羽目に陥つた女。出所後の人生に希望を残すために、彼女は子供を作ることを考へた…

ジャン・ユスターシュ『ママと娼婦(La maman et la putain)』1973

ジャン・ユスターシュ監督作。有名な作品なので、学生の頃から見よう見ようと思つてはゐたのだが、三時間半の大作に尻込みしてゐた。これほどの長時間、ヴィスコンティのやうな藝術作品であるなら耐へられるが、青臭い人生哲学を聞かされることは勘弁。 私は…

ジャン・ユスターシュ『ぼくの小さな恋人たち(Mes Petites Amoureuses)』1974

ジャン・ユスターシュ監督作。5年ぶりに早稲田松竹で鑑賞。映画館でみると、この映画が持つ繊細な色彩、柔らかいパステル色が際立つて良い。 冒頭に "Douce France" が流れる。 「懐かしい記憶が甦る。小学生の頃に黒の制服を着て歩いた通学路。声高らかに歌…

田中絹代『お吟さま』1962

田中絹代監督作。彼女は木下惠介『陸軍』1944で名演技を見せた女優である、映画を撮つてゐるとは知らなんだ。 利休の娘、堺の商人で茶人の万代屋宗安の妻であるお吟(名は創作らしい)と、高山右近との痴話である。利休関連の映画の中で最も程度の低い映画では…

勅使河原宏『豪姫』1992

勅使河原宏監督作。 この所続けて、茶の湯と関連する映画を観てゐる。今度は前田利家の娘、宇喜多秀家の正室豪姫と、古田織部とを中心に、蒲生氏郷、細川忠興、高山右近ら。豊臣から徳川へ、動乱の世に生きる茶人を描く。 茶人にキリシタンが多いのは、どう…

熊井啓『千利休 本覺坊遺文』1989

熊井啓監督作。三船敏郎が千利休を演ずる。ヴェネツィアの銀獅子賞。 利休居士の死後、洛北の山庵に遁世する本覺坊といふ弟子(架空の存在)が、織田有楽斎、東陽坊長盛、古田織部そして千宗旦と交流し乍ら、利休がどういつた気持で死んでいつたのか、に迫る物…

大島渚『御法度』1999

大島渚監督作。幕末の京都、新選組。美少年加納惣三郎の入隊。妖艶な美少年に乱される屈強なる男たちの心。しかし私の心に愬ふるものは無かつたかな。

勅使河原宏『利休』1989

勅使河原宏監督作。本物の長次郎(赤楽)、本物の織部。小道具の迫力がまあ凄い、それに負けぬ俳優らの迫真の演技も見事である。映像も音楽も幽玄で良い、敢へてチェロなのが良い。近頃はかういつた本格派の日本映画はめつきり減つたし、心を持つ日本人も減つ…

パトリス・ルコント『仕立て屋の恋(Monsieur Hire)』1989

パトリス・ルコント監督作。ミシェル・ブラン(昨年亡くなつた)、『冬の日』、『悪魔の陽の下に』のサンドリーヌ・ボネールが出演、最優秀助演賞にブラームスのピアノ四重奏曲第1番第4楽章と、在りし日のパリ北駅。 何度でも言ふ。これはフランス一流の心理小…

マーティン・ブレスト『ジョー・ブラックをよろしく(Meet Joe Black)』1998

マーティン・ブレスト監督作。ブラッド・ピット、アンソニー・ホプキンス出演。とこしへの時を生きる悪魔に、倏忽として生を終へる人間が、愛とは何かを垂れる。生涯を懸けて相手への信頼と責任を全うすること、何より愛する人を傷付けぬこと、ださうだ。 心…

ジェームズ・アイヴォリー『眺めのいい部屋(A Room with a View)』1986

I mean something happened to me, and to you. 旧い友人に言はれた事がある、「貴方は常に何かを我慢して生きてゐる」と。私の青春を想ひ返せば、自らの惨めさを人に見透かされぬやう無理して気高く振舞はんとする、そんな記憶ばかりだ。 この映画が嘲笑ふ…

ロマン・ポランスキー『テス(Tess)』1979

生涯傑作を生み出し続ける怪傑、ロマン・ポランスキー監督作。セザール賞。 トーマス・ハーディの『ダーバヴィル家のテス』といふ1891年の小説の映像化。男に運命を翻弄される無知な田舎娘。男のエゴイスムと女の不幸への執着。自然主義の作品らしく、人類の…

デヴィッド・マッケンジー『パーフェクト・センス(Perfect Sense)』2011

デヴィッド・マッケンジー監督作。ユアン・マクレガー、エヴァ・グリーンが出演、『男と女』のやうな、大人の恋を描ゐた作品かと思うたら、まあさうには違ひないが、まるでコロナ禍を予言したかのやうなSF、スリラー。イギリス映画らしさ。嗅覚、味覚、聴覚…

ドミニク・クック『クーリエ: 最高機密の運び屋(The Courier)』2020

晴。本日は仕事を休んだ。投函はまだだが手紙を書いた。矢張り書くといふ事は良い、一々字引をするのではなく、脳裡に浮かんで来た儘に、一気呵成に思ふが儘に書くのが良い。推敲は必要だが、まずはそれでいい、それが気持ち良い。大分楽になつた。 ドミニク…