Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

リラダン『奇談集(Histoires insolites)』1888

作者の死の前年に刊行、ニ十篇を纏めた小品集。その前半はエドガー・アラン・ポーを彷彿とさせる奇譚が(そもそも本題からしてポーのHistoires extraordinairesに案を得たものとする考察もある)、後半はカトリックのモチーフ、例えば施し、戦闘的カトリック、肉の快楽の否定など、を主題とした小品が目立つ。

短い乍らも、見事に起承転結の設計された名作の数々。ヴィリエの巧みな話術を媒介とし、我々は靈しき世界へとむべなく引き摺込まれる。そして劇的な終幕!身の毛のよだつ刺激が、読書に多大な満足を與う。

特に愉しんだ作品を下に挙げよう。

「ルドゥー氏の幻想(Les Phantasmes de M. Redoux)」...ポーにも劣らぬ「数学的阿片」。
「幸福の家(La Maison du Bonheur)」...彼處、ものみなは秩序と美、奢侈、静寂、はた快楽。
「現代の傳説(La Légende moderne)」...ワーグナーが主人公。
「ソレームの会見(Une Entrevue à Solesmes)」...笞搏つキリストをどう捉えるか、カトリックにとり重要な問題を扱う。
「泣き男(L'inquiéteur)」...読者を裏切る結末、お見事。

 

うたた ますます、いっそう
噯にも(おくびにも) まったく
晨(あした) 朝、夜明け
四角張る 堅苦しい態度をとる
酔生夢死 むなしく一生を過ごすこと
萎靡(いび) なえてしおれること
ウェスタの処女 古代ローマで女神ウェスタに仕えた巫女、純潔の象徴
汚行(おこう)
幽趣(ゆうしゅ) 奥ゆかしい風情
陋屋(ろうおく) 狭くて見すぼらしい家
キ印(きじるし) 気狂い
貴顯(きけん) 身分高く、名声のある紳士
ソレム フランスのコミューン、ベネディクタンの修道院で有名
彼誰時(かはたれどき) 明け方の意味で用いられる(↔誰彼時(たそがれどき))
往昔(おうせき、そのかみ) 過ぎ去った時
峨峨たる 山や岩石などが嶮しく聳え立っているさま