Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ワーグナー『ロオエングリン(Lohengrin)』高木卓譯

1845年、『タンホイザー』で疲労困憊したワーグナーは、ボヘミアのマリエンバードに保養していた。毎朝ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの叙事詩を脇に抱えて、森へ出かけたという。 ワーグナーははじめ、ヴォルフラムの手が入った『ロオエングリン』…

ルイ・マル『鬼火(Le Feu follet)』1963

花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに 外は変わらず暑い。主日のミサをサボタージュ、音楽を喪った教会は私を惹付けない。昼餉はいつものフランス料理屋で。クリュディテが美味しい。マダムと夏のjauntについて会話してすぐ帰宅…

アントチャク『ショパン 愛と哀しみの旋律(Chopin: Desire for Love)』2002

ポーランドを代表する芸術家の半生を描く。『アマデウス』と同じノリで鑑賞をしたのだが酷い映画だった。ショパンの美くしい音楽を用いている筈なのに映画は美くしくない。それは知性、品格、歴史へのリスペクトなど、芸術を構成する一切のものが缺けている…

メリメ『シャルル九世年代記(Chronique du règne de Charles IX)』1829

古い岩波の赤帯、1952年の譯。 16世紀の末葉、シャルル九世治世のフランス社会風俗を描いた歴史小説。サン・バルテルミーの虐殺を中心に、当時の社会を渦巻いていたカトリック・プロテスタントの宗教対立を主題とする。 長い序文で喋々と歴史論考をしている…

ミロス・フォアマン『アマデウス(Amadeus)』1984

特に、天才を排す—近代の標語 ヴィリエ・ド・リラダンに『二人の占師』という小篇がある。世に出たければ凡庸であれというマクシムを遺した皮肉な作品なのだが、『アマデウス』の鑑賞が、私にそれを思い出させた。畢竟天才の行き着く先はいつの時代も共同墓…

『Louange à Dieu, Très-Haut Seigneur(その聖所にて神をほめたたへよ)』

www.youtube.com 動画はノートルダム大聖堂のミサ。その入祭唱で歌はれてゐるのがこの聖歌である。歌詞は詩篇第150篇のやうな神を賛美する内容だが、正確な出典は不明。 Louange à Dieu, Très-Haut Seigneur,その聖所にて神をほめたたへよ pour la beauté de…

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ(Tristan und Isolde)』高木卓訳

昧爽の光が窓帷の隙間から漏れている。朝まで一文にも成らぬ事に精を出して愚かな事だと思うが、これが私の生である。 先刻まで『トリスタンとイゾルデ』のリブレットを読んでいた。岩波上梓の高木卓譯。この三幕からなる楽劇の台本は、作曲者自らが「トリス…

20230706日記

晴れ、暑い。鬼子母神で縁日、祭囃子が微かに聞こえる。ひどい倦怠に襲われているが、書物を読む気力の在ることが幸いである。 私はフランス被れかアングロマニアかのように看做される事が多い。食事、服装、音楽、文学の趣味に西洋偏向が目立つせいだろうが…

『Out of the deep(De Profundis)』詩篇 第130篇

されど人の子の来る時地上に信仰を見んや ルカ傳18:8 この頃希望を見出せずに居る。 www.youtube.com アングリカンで歌われるデ・プロフンディス。The Choir of King's College, Cambridgeの録音。Reverentな響き。 ledilettante.hatenablog.com 1. Out of t…

ポオ『大鴉(The Raven)』1845

エドガー・アラン・ポオの代表作『大鴉』。哀感と音楽とに満ちた物語詩。日夏耿之介氏の飜譯、ギュスターヴ・ドレの挿絵が付いた豪華本を読んだ。 或る厳冬の夜半、亡き恋人を想い悲観に暮れる男の部屋に、黒檀色の大鴉が飛び込んでくる。男はすさびに鴉に名…

『増補フランス文学案内』岩波書店 1989

近頃読書量が落ちている=心が荒んでいることを危惧した私は、アルベール・ティボーデの『フランス文学史』を購入した。読むべき本を見つける為である。ティボーデが届くまでの時間、私は予習として岩波の仏文入門書を再読する事にした。 岩波の入門書は、19…