Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

2022-01-01から1年間の記事一覧

20221013日記

つまらぬ、精神を消耗する、だが私に糊口を許す有難い仕事を終えて帰宅。郵便受けに神からの祝福。 かねてより垂涎していた書物、『リラダン=マラルメ往復書翰集』森開社, 1975が届いた。森開社というのは仏文学を専門とし奢侈な装幀で有名な道楽の出版社で…

アイヴォリー『上海の伯爵夫人(The White Countess)』2005

ジェームズ・アイヴォリー監督作。映画のためにカズオ・イシグロが脚本を書きおろした。題名からして白系ロシア人の話だろうなと思い、久しく気になっていた。 妻と子を亡くし、半ば自暴自棄の生活を送る米国人外交官(レイフ・ファインズ)は、異国の地、上海…

プーシキン『ボリス・ゴドゥノフ(Борис Годунов)』1831

急遽オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』を予約した為、その予習(先日の記事参照)。 プーシキンの戯曲。1825年に執筆され、1831年検閲をパスして出版。しかし作中の批判的精神は当局を躊躇させ、舞台上演には更に40年の歳月を要した。岩波書店、佐々木彰譯。良い翻…

リラダン『遺稿断章』1

リラダン研究書の閲覧申請を断られた。落澹のあまりに、その三流大学図書館とレファレンスの婢女とを罵り且つ呪い(無論心の中で)、腹癒せに来月のオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』の最上席を予約した所で、何とか腹の蟲は治まった。本の方は£70で英国から輸入…

20221005日記

眠れぬ為日記をつける。 小雨、過し易い。フォーレのレクイエムを聴く。近頃政治が煩いが、私にとって国家など、偶然に生を受けた土地以外の何でもないから、どうなってくれても構わない。喩えこの国の輿論が寛容を喪い、我々に対して(つい80年前の様に)攻撃…

20221003日記

神は、言葉でもなく、象徴でもなく、抽象でもなく、恰も我々が、我々を愛し、識り、理解する父と暮らすように、魂が相共に暮すところの存在である。 その情緒は極めて甘美にして強烈であるから、一度それが去ってしまうと、それはもはや、それよりも強度の低…

マラルメ『ヴィリエ・ド・リラダン(Villiers de l'Isle-Adam. Conférence par Stéphane Mallarmé)』1890

ヴィリエを偲ぶステファヌ・マラルメによって、1890年2月にベルギーで行われた講演のテキスト。その翻譯の森開社による上梓。随分と前に神保町の田村書店で購入して目を通したが、覚書を遺していなかった。翻譯が拙く読み難いテキストである。 彼の読書量は…

ヴィスコンティ『地獄に堕ちた勇者ども(The damned)』1969

ルキノ・ヴィスコンティ監督作。 製鉄一族である男爵家。当主が殺害されequibiliumの崩れた一家の、醜い権力闘争を描く。デカダンな風俗描写がその醜さを際立たせるが、この至高の腐敗に、美を見出す人もいるのだろう。渋澤龍彦氏あたりは歓びそうだ。 私が…

リラダン『脱走(L'Evasion)』1887

一幕からなる散文の劇。エピグラムはヨハネ傳福音書から「ラザロよ、出で来れ」。ここに云うラザロは、ルカ傳第16章の貧しき者とは別人。ベタニヤのマリヤ、マルタの兄弟で、イエスの友人。ラザロは病に拠りて一度死ぬが、墓におかれて四日を経たころ、イエ…

モーリス・クロシュ『聖バンサン(Monsieur Vincent)』1947

本日は聖ビンセンチオ・ア・パウロ司祭の記念日。ミサには行けなかったが、1947年のフランス映画『聖バンサン』を観て、彼に思いを致すことにした。 モーリス・クロシュ監督作。クロード・ルノワール撮影。幾つか映画賞を受賞した古典的作品であり、1995年ヨ…

ラモー「未開人(Les sauvages)」或いは「平和な森(Forêts paisibles)」『優雅なインドの国々(Les Indes galantes)』1736 より

www.youtube.com ラモー作曲、オペラ=バレ『優雅なインドの国々』から。第4幕第6場のロンド。ルイ王朝時代の音楽。ラモーにリュリ、フランス王国が誇る二大作曲家。 ledilettante.hatenablog.com 【対譯】Forêts paisibles,平和な森よ、Jamais un vain désir…

コナン・ドイル『ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)』1891

シャーロック・ホームズシリーズの映像化作品は数多ある。しかし、ジェレミー・ブレットを起用した英国グラナダテレビジョン制作のドラマシリーズは特別である。これほど満足に為された映像化作品は他にない。描写される風景、人物の風貌、台詞の細部に至る…

ゴダール『カルメンという名の女(Prénom Carmen)』1983

ジャン=リュック・ゴダールが死んだ。まだ生きていたことに愕いた。あとヌーヴェルバーグで存命なのはクロード・ルルーシュくらい? 私は一時期フランス映画に凝っていた。だからゴダールの作品は少なからず観た。否、「フランス映画好き」を名乗る為に、観ざ…

リラダン『新世界(Le Nouveau Monde)』1880

ヴィリエ・ド・リラダンによる五幕、散文の戯曲。1875年アメリカ獨立記念を祝して催された脚本コンクールへの応募作品。賞金1萬フラン!応募作品約100篇の中から、ヴィリエの『新世界』が最優秀作として択ばれた。 「綱領」の存するコンクールに提出されただ…

リラダン『奇談集(Histoires insolites)』1888

作者の死の前年に刊行、ニ十篇を纏めた小品集。その前半はエドガー・アラン・ポーを彷彿とさせる奇譚が(そもそも本題からしてポーのHistoires extraordinairesに案を得たものとする考察もある)、後半はカトリックのモチーフ、例えば施し、戦闘的カトリック、…

ドビュッシー『フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ(Sonate pour flûte, alto et harpe)』1915

www.youtube.com ドビュッシーによる三楽章から成るソナタ。フルート、ヴィオラそしてハープの三者の組合せは他では知らぬ。特に第二楽章、ヴィオラが良い味を出している。この曲は彼の死の3年前に書かれた。病に臥す日々の中で作曲されたからだろうか。その…

20220903日記

銀座まででかけて、ジャケットを新調。生地は伊太利製の黒無地。ダブルブレステッド、黒水牛の6つ釦3つ掛(ここが重要)。ピークドラペルに、サイドベンツ。型紙から作成して頂くから、納品に時間がかかるとのこと、問題ない。

モーリアック『イエスの生涯(Vie de Jésus)』1936

www.youtube.com フランソワ・モーリアック(François Mauriac)が遺したイエス伝。共観福音書(特にルカ伝福音書)と第四福音書とを豊富に引用し、彼の解釈を加えて、イエスの生涯が語られる。解釈と云えば、殊にイスカリオテのユダの心理に関する記述が独創的…

シベリウス『交響曲第4番イ短調』1911

www.youtube.com 演奏会に初台まで出掛ける。演目はエルガーのヴァイオリン協奏曲とシベリウスの交響曲第4番イ短調。 シベリウスの第4番を通して鑑賞するのは初めてのことだった。古典的形式美を誇る前半のエルガーとは好個の対照を為しており面白かった。暗…

20220829日記

信仰とは人生の防波堤である。マストを折られた人間が平和に座礁していられるための。

ラ・ロシュフコー『寸鐵(The maxims and reflections)』1664

寸鐵...短くて人の胸をつく語句。 ラ・ロシュフコー公爵は17世紀フランスの軍人、政治家。策謀の貴族社会に於いてリシュリュー卿やマザラン卿と対立し、辛酸を嘗めた経験を持つ。そんな彼の遺した箴言集、すなわち本書は、人生の真理を道破するものとして、…

市川崑『細雪』1983

市川崑監督作。吉永小百合が雪子を演ずる。 女優陣が大変美しい。『細雪』はみたび映画化されているが、本作は筋書きも雰囲気も、最も原作に沿ったものになっているのではないか。幸子の夫である貞之助を、どうして女好きの遊び人に描いたのか、その意味は理…

市川崑『炎上』1958

『犬神家の一族』(1976)の市川崑監督。京都大映の制作。音楽は後にオペラ『金閣寺』を作曲する黛敏郎。 三島由紀夫の『金閣寺』を原作とする。題名が『炎上』、寺の名前が「驟閣寺」となっているのは、映像化にあたり京都仏教界の反対を受けたからだそう。境…

20220816日記

晴れ、沛然と降る夕立ちあり。変わらず暑い。山梨県立美術館まで出かけた(大変な遠出!)。ここはミレーはじめバルビゾン派のコレクションで有名である。17の頃か、NHKの特集で存在を知った。以来いつか訪ねてみたいと思っていた。「種蒔く人」が目玉であるが…

リラダン『アケディッセリル女王(Akëdysséril)』1885

ヴィリエによる中篇小説。初出は1885年La Revue contemporaine誌上。ヴィリエは「死」について生涯深い瞑想を続けており、その思考は彼の諸作品に反映されている。それは『アケディッセリル女王』に於ても例外ではなく、本作品で明らかにさるヴィリエの「自…

リラダン『アクセル(Axël)』1890 再読

余暇を利用してヴィリエ・ド・リラダンの『アクセル』を再読。ヴィリエの精神的な遺書とも呼べる本作品は、至高の理想主義に彩られ、至純の美に耀く。 ledilettante.hatenablog.com さる公爵家の最後の娘サラ・ド・モーペールは、年古る尼僧院にて、修道の誓…

リラダン『反抗(La Révolte)』1870

短い生涯のうち四年の間、おのが精神力を抑へつけてやつた妥協が、その精神力を弱めてしまつた!今更どうしやうもない!(...)試練は終つた。わたくしは敗れた。 リラダンによる三幕からなる戯曲。1868年、作者三十歳の時に創作されたと推定されている。1870…

リラダン『幸福の家(La Maison de Bonheur)』1885

この二つの魂は、曙の光を見ぬうちから、生まれながらの純潔に耀いて、あたかも郷愁に悩むがごとく、「天上」の事物をのみひたぶるに慕ひ求むる一種遣瀬なき情熱を授けられて、その姿を現したのであつた。 リラダンによる短篇。初出は1885年『ラ・ルビュー・…

夢想するとは

夢想する、とは、先づ第一に、「愚かしさ」より千倍も賤しい劣等な精神の、至高権力を忘れ去ることです!それは永遠の掠奪者共の手の施しやうもない喚き聲に耳を塞ぐことです!それは各人が堪へ忍び萬人が相手に蒙らせてゐるあの汚辱、あなたが社会生活と呼…

オリバー・パーカー『ドリアン・グレイ(Doriangray)』2009

オリバー・パーカー(Oliver Parker)監督作。オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』を原作としているが、オリジナルの要素が強い。本作はこれまで何度か映画化されているから、変化を付けたかったのだろう。ちなみにパーカーは、同じくワイルドの喜…