Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

リラダン『幸福の家(La Maison de Bonheur)』1885

この二つの魂は、曙の光を見ぬうちから、生まれながらの純潔に耀いて、あたかも郷愁に悩むがごとく、「天上」の事物をのみひたぶるに慕ひ求むる一種遣瀬なき情熱を授けられて、その姿を現したのであつた。

リラダンによる短篇。初出は1885年『ラ・ルビュー・コンタンポレーヌ(La Revue contemporaine)』誌にて、ついで『新残酷物語(Nouveaux Contes Cruels)』1888、『奇談集(Histoires insolites)』1888に集録。

リラダンの深遠な思想と、幽玄な夢が、率直に語られる名篇。選ばれし久遠の伉儷、双の霊魂が完全なる調和のもと、至上の生活を営むという物語。形而下的な描写はなく、筋書の発展もない。「彼處、悉皆は、秩序と美、奢侈、静寂、はた快楽」という本篇のエピグラムは、ボオドレエルの『旅への誘ひ』から採られているのであるが、正に本篇は、かの詩を散文に置換えたものに他ならない。

うつしよを「忘れ去る権利」をかち得た人々は幸いである。かなしい哉、私にそれは無いのだ。