Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

モーリス・ピアラ『悪魔の陽の下に(Sous le soleil de Satan)』1987

モーリス・ピアラ監督作。1987年のパルム・ドール、フランス人監督の作品に同賞の與へらるは、1966年クロード・ルルーシュ『男と女』以来、實に21年ぶりの事であった。

『ダントン』、『終電車』のジェラール・ドパルデュー(Gérard Depardieu)、『冬の旅』、『仕立て屋の恋』のサンドリーヌ・ボネール(Sandrine Bonnaire)が出演。私はボネールが好きだ、「幸薄い悪(美)女」の役柄が似合ふ、一寸変わった種類のファム・ファタル

 

ジョルジュ・ベルナノスの同名小説(1927)を原作としてゐるが、プロットは異なる。

強い信仰と無垢な心を持ちながら、自身の無力さに懊悩する神父。彼は或る夜、馬喰の姿に身を変へた悪魔の試誘に遭ふが、それを拂ひのける。

俄かに自信を付けた神父であったが、直後に邂逅した少女の魂を救ふ事に失敗する。この時、現世を支配するは矢張り悪魔でないかと、深い懐疑に陥る。

数年後、担当教区で子供が死ぬ。それを見舞った神父は、「子供を生き返らせろ」と心の裡に声を聞く。だが彼に呼掛けたのは神なのか、はた悪魔なのか判らない。

神父は子供の手にかかったロザリオを除けて死体を持ち上げる。「永遠の命を犠牲にする」と神と悪魔に呼掛けた途端、ラザロの如く子供は目を開けた。応へたのは悪魔であった。

「神よ私を見棄てないでください」。神父は絶望の裡に息を引き取る。

 

偽善的な利己主義者と、それの犠牲になる無垢な人。絶望を拂いのけんと神を頼るも、その沈黙に苦しむ人。うつしよの闇を描破する映画である。パルム・ドール受賞の理由も、その辺りにあるのだらう。

 

これから彼誰時まで読書をする。御供はジークフリート牧歌とマーラーの第7番。

 

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