Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

アン・リー『いつか晴れた日に(Sense and Sensibility)』1995_ソネット116番英和対訳

アン・リー監督作。ジェイン・オースティン『分別と多感』(1811)の映像化作品。『ハワーズ・エンド』のエマ・トンプソンヒュー・グラントらが出演。英国式のコスチューム・ドラマの名作を観たければ、エマ・トンプソンの出演作品一覧にあたれば良いと思はれる程、彼女は1990年代の英国映画で活躍をしてゐる。

 

同じオースティン原作『高慢と偏見』の類似作品と云ふより、英国式のコスチューム・ドラマはどれも似通つてゐる。英国式のコスチューム・ドラマを特徴付けるのは、miserableな現実主義。キーワードは財産、相続、縁戚、社交界、結婚。要するに、うんざりな俗事である。仮に構成物がこれらに限られてゐたら、英国式のコスチューム・ドラマは韓国映画と同質の汚物にすぎないのだが、ここに18世紀譲りの優雅・様式美とが不思議な共存をしてゐるから観てゐられる。制作陣に良識と教養があるから映画たり得る。

 

作中で沙翁のソネット116番が使はれてゐる。18番 "Shall I compare thee to a summer's day?" と並びポピュラーな一篇。翻譯をしてみる。

 

Let me not to the marriage of true minds
Admit impediments; love is not love
Which alters when it alteration finds,
Or bends with the remover to remove.
O no, it is an ever-fixèd mark
That looks on tempests and is never shaken;
It is the star to every wand'ring bark
Whose worth's unknown, although his height be taken.

Love's not time's fool, though rosy lips and cheeks
Within his bending sickle's compass come.
Love alters not with his brief hours and weeks,
But bears it out even to the edge of doom:

If this be error and upon me proved,
I never writ, nor no man ever loved.

 

私は真心の結びつきに妨げを認めぬ。
情況に応じ変はるもの、
離れるままに任せ得るもの、
それは愛にあらず。
否、愛とは揺らぐ事なきしるべ、
嵐を眺めやり、たじろぎもせぬ。
げに愛とはおほうみを往く帆船の北極星
その真価こそ分かねど、その高みは測り得る。

愛は時の悪戯にあらず、喩へ薔薇色の脣と頬とが、
時の利鎌を逃れ得ずとも。
愛とは時にうつらふ事なく、
裁きの日を迎ふるもの。

これに反証が為さるるとき、
私は詩を書くまいし、誰も愛すまい。