Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

パトリス・ルコント『仕立て屋の恋(Monsieur Hire)』1989 

見了えた後に良かったと感じても、二度と見直す事のない映画がある一方で、ふとした時に(それは大抵さよ更ける頃の衝動だが)、何度も見直してしまう映画がある。

私が後者に挙げるのは、例えば『男と女(un homme et une femme)』、『鬼火(Le Feu follet)』、『二十四時間の情事(Hiroshima mon amour)』そして『仕立て屋の恋(Monsieur Hire)』。

パトリス・ルコント監督作『仕立て屋の恋』は間違いなく名作である。これ程に孤独な男の心理を描破している映画はない。ムシュー・イールはétranger。周囲に拒絶される屈辱から自尊心を守る為、周囲を拒絶して孤高を装う。だが折節に、そうした強がりが虚しくて堪らなくなる。愛に餓えているから、愛したものに対する執着は人一倍。だが愛に馴れていないから、愛に裏切られる事となる。

今回の視聴で初めて気が付いた事がある。彼が死の際に握りしめているのは、アリスの香りを染み込ませた、白い手巾である。