Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

2023-01-01から1年間の記事一覧

宮崎駿『君たちはどう生きるか(The Boy and the Heron)』2023

公開中のジブリ映画『君たちはどう生きるか』を劇場で鑑賞。吉野源三郎の同名小説からの類推で、リアリスムに基いた作品だと勝手に想像してゐた。記録を残す迄もないと思つたが、一応。 始まりは或る意味「期待通り」だつた。堀辰雄的な世界、即ち格子窓とエ…

20231004日記_覚書など

霧雨。毎月の紅茶と、西武百貨店から商品券を受取る。もつと繁く日記をしたためるべきなのだけれども、つひ億劫で。 中秋の月の皎皎たるや見事だつた。その翌日だつたか、仕立て屋へ行き冬のコートを注文した。シングルブレステッドのチェスターフィールドコ…

ボードレール『火箭(Fusées)』『赤裸の心(Mon Coeur Mis à Nu)』遺作

ボオドレエルの観察や所感、箴言の覚書き。『惡の華』を上梓した頃から、詩人が失語症になる直前迄に書かれた。母に宛てた書簡を見ると、ルソーの『告白録』に倣ひ、出版を意図して書留めてゐた事が分る。 世間が崇拝してゐるものに対して、僕が自分をさなが…

キューカー『マイ・フェア・レディ(My fair lady)』1964

私にとつてミュージカル映画と云へば『マイ・フェア・レディ』である。"Wouldn't it lovely"、"On the street where you live"。日常でつひつひ口遊んでしまふ、キャッチ―な旋律が澤山。 How do you do. 若き頃のジェレミー・ブレット。彼は1933年生れだから…

マイケル・ホフマン『終着駅 トルストイ最後の旅(The Last Station)』2009

マイケル・ホフマン監督作。レフ・トルストイの晩年、妻ソフィアとの夫婦関係を描く。ヘレン・ミレンが綺麗。トルストイを演じたのは『サウンド・オブ・ミュージック』のクリストファー・プラマー、もう見た目では彼と分らない。 私の心に響かなかつた。重厚…

20230925日記_原罪

晴れ。大変な疲労。マタイ受難曲を聴き動悸を抑へる。 原罪について公教要理を確認した。 ・人間は創造主に背き、神なしに、また神によらずに「神のように」なろうと望んだ(創世記3:5)。これにより人間は、原初の聖性と義の恵みを失った。斯かる状態を原罪と…

吉野源三郎『君たちはどう生きるか』1937

今、同名のジブリ映画が上映されてゐる。尤も脚本はオリジナルださうだが。 私は本書を、遠い昔に読んだ覚えがある。その筋こそ忘れてゐたものの、本質の部分は確かに私の内奥に生きてゐた。その一つ、「自らの過ちに対し言い訳をし、それを忘却するやうな事…

『ナチス・ドイツに於る音楽(Music in Nazi Germany)』DW Documentary

www.youtube.com "Music in Nazi Germany"なるDeutsche Welleのドキュメンタリー。「おすすめ動画」として出て来たので視聴。フルトヴェングラー、ワーグナー、ユダヤ人、バイロイト、アウシュヴィッツ=ビルケナウ。話を敷衍した割に、Music is immortalと云…

ティボーデ『フランス文学史(Histoire de la littérature française - de 1789 à nos jours)』1936_ボードレール論

「『惡の華』の歴史。誤解によつて受けた屈辱、訴訟」(ボオドレエル『赤裸の心』) 「私の蒙つた屈辱は神の恩寵であつた」(ボオドレエル『火箭』) 「罪の増すところには恩惠も彌増せり」聖パウロ アルベール・ティボーデは史学と哲学を修めた後に、文芸批評の…

20230917日記

さりながら、何といふ愕くべきことであらう、我々の理解から最も懸け離れてゐる秘義、即ち原罪遺伝の秘義が、それなくしては我々がおのれ自身について何等の理解をも得ることの出来ぬ一事であらうとは。(パスカル『パンセ』) 私の魂を縛るは、唯原罪の意識の…

竹宮惠子『風と木の詩』1976-84

www.youtube.com カラヤン率ゐるベルリーナフィルハルモニカ。今ではこの名門オケも様変りし、女性コンマスが誕生したと云ふ話も聞いた。性差なく実力ある人間がコンマスになれば良いと思ふが、女性のコンマス就任、それがさも意味ある事のやうに宣伝する浮…

20230903日記

秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞ驚かれぬる 晴れ。処暑らしく、昼の日差しは夏そのまま乍ら、夕暮れ時には涼しい風もある。 今朝は肺腑を抉るやうな悪夢で目を覚ました。愛する人、友人、そして来し方の夢。これらが象徴的に出現しては、私を拒…

フォーレ「メリザンドの歌(Chanson de Mélisande)」『ペレアスとメリザンド(Pelléas et Mélisande)』1901

www.youtube.com モーリス・メーテルランクの戯曲『ペレアスとメリザンド』、英訳版の劇付随音楽。第三幕第二場、塔の窓際に坐すメリザンドが、光の束のやうな美くしい金色の髪を、くしけずり乍ら歌ふ「王様の三人の盲の娘」。これはロレイン・ハント・リー…

エルネスト・ルナン『イエスの生涯(Vie de Jésus)』1863 

基督が、祈禱と信仰とは物質的にすら全能だと信じ給うたことを、ルナンは莫迦げてゐると考へてゐる。(ボオドレエル『赤裸の心』) エルネスト・ルナン(1823-92)は19世紀フランスの思想家。ブルターニュの敬虔な家庭に生れ、サン・シュルピス神学院に学ぶが、…

20230823日記_京の夏

洋服の注文とお茶を買う為に京都に赴いた。暑い、だが私は京都の夏は嫌いではない。 静寂の中に響く蝉の声。青紅葉や苔の深い緑と、空の紺碧との調和。どこからか馥郁たる香が漂う。神韻縹渺、京の夏には暑い中にも優雅がある(気持ち一つじゃないか)。 ああ…

函館紀行(4)_当別教会(聖リタ教会)、当別トラピスト修道院

峻厳なる生活のよろこびをさとれ、而して祈れ、絶え間なく祈れ。祈禱は力の貯蔵所だ。意志の祭壇、精神の力学、秘蹟の魔法、霊魂の衛生。(ボオドレエル『火箭』) 朝まだき、雨の函館驛を発つ。乗込んだ国鉄時代の気動車は日本海沿いを走り、幾つかの淋しき漁…

函館紀行(3)_厳律シトー会 天使の聖母トラピスチヌ修道院

曇り、27度。 本日はトラピスチヌ修道院に行くと決めていたのに、朝を寝過ごした。時間に余裕もないので昼食は取らず、だが元町教会での祈りは忘れずに済ませて、市電に乗込んだ。トラピスチヌ修道院は正式名を「厳律シトー会 天使の聖母トラピスチヌ修道院…

函館紀行(2)_カトリック元町教会(2)

詩人てふ苛立ちやすき種族 雨、涼しい。 聖母被昇天を函館元町教会で祈る。教会への道すがら、街に鐘の音が響いていたが、あれは正教会のものだろうか?彼らもまたNotre Dameの祭日を祝っているのだろうか?しかあれかし。函館は信仰と共にある街だ。衰退の…

函館紀行(1)_カトリック元町教会

暫く函館に逗留している。本日の天気は霧雨、涼しい。京都が37度、東京32度、軽井沢でも28度だと云う事だが、函館は24度。何たる特権の享受。この気温と、一向に顔を出さぬ太陽との所為で、私はイングランドに来ているかのような錯覚を覚え始めた。じめっと…

ワーグナー『パルジファル(Parsifal)』高木卓譯

偕に悩みてさとりゆく 純真無垢(Parsi)のおろかもの(Fal)かかる男を待てよかし 我の選べる者なれば 『パルジファル』はワーグナーの死の前年、1882年に完成しバイロイトで初演された。 作曲家は『パルジファル』を舞台神聖祝典劇(bühnenweihfestspiel)と銘し…

20230808日記

晴れ、積乱雲をみる。感傷な想いを起こしている私の横を、日に灼けた少年2人が通り過ぎた。彼らは翳りの無い笑顔をしていた。その表情が持つ率直さは、私を苦しめた。

ワーグナー『ロオエングリン(Lohengrin)』高木卓譯

1845年、『タンホイザー』で疲労困憊したワーグナーは、ボヘミアのマリエンバードに保養していた。毎朝ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの叙事詩を脇に抱えて、森へ出かけたという。 ワーグナーははじめ、ヴォルフラムの手が入った『ロオエングリン』…

ルイ・マル『鬼火(Le Feu follet)』1963

花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに 外は変わらず暑い。主日のミサをサボタージュ、音楽を喪った教会は私を惹付けない。昼餉はいつものフランス料理屋で。クリュディテが美味しい。マダムと夏のjauntについて会話してすぐ帰宅…

アントチャク『ショパン 愛と哀しみの旋律(Chopin: Desire for Love)』2002

ポーランドを代表する芸術家の半生を描く。『アマデウス』と同じノリで鑑賞をしたのだが酷い映画だった。ショパンの美くしい音楽を用いている筈なのに映画は美くしくない。それは知性、品格、歴史へのリスペクトなど、芸術を構成する一切のものが缺けている…

メリメ『シャルル九世年代記(Chronique du règne de Charles IX)』1829

古い岩波の赤帯、1952年の譯。 16世紀の末葉、シャルル九世治世のフランス社会風俗を描いた歴史小説。サン・バルテルミーの虐殺を中心に、当時の社会を渦巻いていたカトリック・プロテスタントの宗教対立を主題とする。 長い序文で喋々と歴史論考をしている…

ミロス・フォアマン『アマデウス(Amadeus)』1984

特に、天才を排す—近代の標語 ヴィリエ・ド・リラダンに『二人の占師』という小篇がある。世に出たければ凡庸であれというマクシムを遺した皮肉な作品なのだが、『アマデウス』の鑑賞が、私にそれを思い出させた。畢竟天才の行き着く先はいつの時代も共同墓…

『Louange à Dieu, Très-Haut Seigneur(その聖所にて神をほめたたへよ)』

www.youtube.com 動画はノートルダム大聖堂のミサ。その入祭唱で歌はれてゐるのがこの聖歌である。歌詞は詩篇第150篇のやうな神を賛美する内容だが、正確な出典は不明。 Louange à Dieu, Très-Haut Seigneur,その聖所にて神をほめたたへよ pour la beauté de…

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ(Tristan und Isolde)』高木卓訳

昧爽の光が窓帷の隙間から漏れている。朝まで一文にも成らぬ事に精を出して愚かな事だと思うが、これが私の生である。 先刻まで『トリスタンとイゾルデ』のリブレットを読んでいた。岩波上梓の高木卓譯。この三幕からなる楽劇の台本は、作曲者自らが「トリス…

20230706日記

晴れ、暑い。鬼子母神で縁日、祭囃子が微かに聞こえる。ひどい倦怠に襲われているが、書物を読む気力の在ることが幸いである。 私はフランス被れかアングロマニアかのように看做される事が多い。食事、服装、音楽、文学の趣味に西洋偏向が目立つせいだろうが…

『Out of the deep(De Profundis)』詩篇 第130篇

されど人の子の来る時地上に信仰を見んや ルカ傳18:8 この頃希望を見出せずに居る。 www.youtube.com アングリカンで歌われるデ・プロフンディス。The Choir of King's College, Cambridgeの録音。Reverentな響き。 ledilettante.hatenablog.com 1. Out of t…