Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

「事実は小説より奇なり」

 「事実は小説より奇なり」。この諺はバイロン男爵の叙事詩"Don Juan"の1節に由来する。ドン・ファンとはスペイン語で好色家の意。日本では一般にモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の形でよく知られている。

 

Don Juanの14編101節

'Tis strange - but true; for Truth is always strange,
Stranger than Fiction: if it could be told,
How much would novels gain by the exchange!
How differently the world would men behold!
How oft would vice and virtue places change!
The new world would be nothing to the old,
If some Columbus of the moral seas
Would show mankind their souls' Antipodes.

Tis <it is>, oft <often>, Antipodes<contrary>
J. McGANN BYRON THE COMPLETE POETICAL WORKS (1986) Oxford Press より

<和訳>
それは奇妙であるが真実である
蓋し真実とは常に小説よりも怪奇であるからだ
そうだとするならば
小説はこの転回からどれ程のものを得るだろう
人々が眺める世界はどれほど異なってみえるだろう
悪徳と美徳はどれほど頻繁にその地位を替えるだろう
もし倫理の海におけるコロンブスが私達にその背理を示したのなら
新世界は旧世界にとって何の意味もなさないだろう

 

 「それ」とは何を指しているのか。100節の "great things spring from little(大事の発端は些細な事である)"を指している。「アデラインとジュアンを破滅へと導く危険な情熱は、ほんの些細な事から生まれるのだ」と語り手は言う。そして102節では、"then(もしそれが本当に起こってしまえば)"に続き我々を襲う災難が表現されている。

 これらを総合すると「事実は小説より奇なり」という表現は極めてネガティブな意味で使われており、フィクションを侮ってはならないという戒めだと言えるのではないか。