"The Three Gables(三破風館)"はThe Case of Sherlock Holmesに録されている一エピソード。動画はグラナダTV版(以下グラナダホームズ)のもの。
グラナダホームズは原作への忠実さでその名を知られているが、実のところ多数のエピソードに脚色が加えられている。20頁程度の小説を1時間のドラマにするのだから当然と云えば当然である。ドラマ制作人の努力は計り知れない。
「原作に対しては、いかなる修正も蛇足となる」
これが映像化の原則であると私は思うのだが、このグラナダホームズは例外である。つまり脚色があまりに秀逸で原作を凌駕することがある。私が思うに「三破風館」はその最たる所である。
小説とTVドラマで異なるのは
・情報屋にしてホームズの旧友、Langdale Pikeの登場
・Duchess of Lomondとホームズとの交流が示唆されること
・ワトソンが黒人ボクサーSteve Dixieに怪我を負わされる
・Isadora Kleinの経歴(ドラマでは身分を偽るアンダルシアのジプシー)
といった点である。この中でも最後の改編は全く大胆なものだ。
フランスの大女優クローディーヌ・オージェを起用するには、原作の設定のままでは役不足だったのかもしれない。ドラマ版ではKleinの狡猾さを際立たせつつ、同時に彼女の女性的な弱さを描く。これら工夫によってKleinの魅力は引き出され(ホームズはKleinを"the destroyer of men"と表現)、ホームズのantagonistとしての「女性」が完成するのだ。