Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

2020-01-01から1年間の記事一覧

ドゥミ『天使の入江(La baie des anges)』1963

ジャック・ドゥミ(Jacques Demy)監督の3作目。ジャンヌ・モロー(Jeanne Moreau)演じるギャンブル中毒の女が、堅物の銀行員の男をギャンブルの世界へと引きずり込む話。ファム・ファタールを演じるモローが美しい。 オープニングでは、ミシェル・ルグラン(Mic…

20201016日記

コートの注文を済ませた。黒のバルカラーベルテッド。仕上がり迄ひと月程待たねばならない。仕立て屋は、僕が今日どのようなコートをオーダーする積りであるかを、初めの会話でピタリと当ててきた。これには全く感心させられた。普段の僕のファッションや、…

ドゥミ『シェルブールの雨傘(Les Parapluies de Cherbourg)』1964

ジャック・ドゥミ(Jacques demy)監督のミュージカル映画。音楽を担当したのはミシェル・ルグラン(Michel Legrand)。ヌーヴェルバーグが生んだ名コンビ。カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞。 全編音楽の完全なミュージカルでまるでオペラのよう。ストー…

ブレスト『セント・オブ・ウーマン(Scent of a woman)』1992

www.youtube.com ”odor di femina”か、小洒落た題名だと思う。マーティン・ブレスト監督。「ザ・アメリカ映画」という感じ。芸術点は低いが、フィーリング・グッドな作品。有名なタンゴシーンで流れるのは"Por una Cabeza"という曲。『シンドラーのリスト(19…

三島由紀夫『サド侯爵夫人』

第三幕の渾沌の前に読者の「道徳」が問われる。諸価値をそれぞれ代表する女6人が想描くサド侯爵"像"。どれも真実ではないのだ。 三島は本作品と『わが友ヒットラー』をお気に入りの戯曲に数えていた。 剣呑 危険を感じている様子 杜氏 酒の醸造工程を担う職…

行定勲『春の雪』2005

「私がもし急にいなくなってしまったとしたら、清様、どうなさる?」 行定勲監督。原作は勿論三島由紀夫。健闘したといって差し支えない仕上がりだと思う。 次作『奔馬』へと繋がらぬことを前提としているからであろうか。飯沼は出て来ない。しかしそうである…

三島由紀夫『夜会服』1967

嫁姑物語。貴族趣味的な小説。1966年から1967年にかけて女性雑誌『マドモアゼル』上に連載。1966年といえば、三島は既に『豊饒の海』の執筆に取り掛かっている頃だ。そんな時期にこれほどに軽快な娯楽小説を書く三島は、職業作家だったのだと思う。

ウェーバー『ピアノソナタ第4番ホ短調』

www.youtube.com カール・マリア・フォン・ウェーバー(Carl Maria Friedrich Ernst von Weber)は『魔弾の射手』しか知らない私に、フランス語の先生がおすすめしてくれた。貸してもらったのはディノ・チアーニ(Dino Ciani)の録音。ウェーバーが最後に遺した4…

アントン・ウェーベルン『弦楽四重奏のための緩徐楽章』1905

www.youtube.com シェーンベルクと同列に語られ、「前衛」のイメージが強いアントン・フォン・ウェーベルン(Anton von Webern)。しかしながらこの『緩徐楽章』は、彼が十二音技法を用ゐる前の作品であり、ブラームスを思はせる森厳甘美なメロディーが特徴。…

20201007日記

物事を分類して話すということ。 目的・手段・結果の分類。短期・中期・長期的観点の分類。 「三島由紀夫の思想と行動」『文芸春秋』1990年12月 pp.306-321 評論家吉本隆明、西部邁の対談。大した事は話していない。・右翼的思想と左翼的思想。前者は行動、…

石橋湛山について

石橋湛山について戦前はジャーナリスト。戦後政治家に転身。国民からは鳩山や岸と並んで「反吉田派」と受け止められた。首相を務める。 石橋の「対米自主論」について米国に依存することを盲目的に受容れる日本人に対しての批判的視座。個人主義や自由主義を…

20201004日記

三島の定義に従うなら、僕は純然たる「文人」になりたい。すなわち「花と散る」人種ではなく、「不朽の花」を育てる人種だ。僕は昔から桜が嫌いだった。いつ散ってしまうか分からぬ儚さに心を乱されることが嫌いだった。僕が求めるのは永遠、ギリシアやロー…

三島由紀夫「自衛隊二分論」1969

三島がいうところの「現実主義的情勢論」しか論じられない私にとってみれば、「自主独立の精神」など眉唾物であるが。 主張の概略日本の「自主防衛論」は「情勢論」。全く現実的な見地でいえば、アメリカの強大な軍備に守られてこそ、ようやく日本の自主防衛…

三島由紀夫『私の遍歴時代』1963

三島自身の17歳から26歳までの古典主義への熱情や、人との出会い、作家としての歩みを38歳の時点で振り返る。1963年の1月から10月にかけて『東京新聞』上で発表された。 戦中戦後の作者の心情は、大切に嚙み砕いてゆかねばならない。殊に終戦のことは豊饒の…

三島由紀夫『太陽と鉄』1968

1965年から1968年に渡って佐伯彰一らの文芸同人雑誌『批評』に連載された。晩年を生きる三島が「芸術と生活、文体と行動倫理との統一」を図るにあたり、その根底に置く観念が紹介されている重要な作品である。 その密度と、論理的飛躍が相俟って極めて難解だ…

20201002日記

寂しい気持のまま家に帰りたくなかった僕はバーに寄った。夜想曲の20番が流れている。何もこんな日にショパンじゃなくてもよい。昔僕が得意としていた曲だ。今ならより上手に演奏できるだろう。

三島由紀夫『女神』1955

1954年から雑誌で連載を始めた本作は、三島文学の中では初期から中期のものにあたる。女性美を追い求める男。彼は自分の娘を「理想の女性」にしようと情熱を注ぐ。理想と現実とが対比されながら話は進み、娘朝子は現実を乗越え「女神」となる。 斑鳩一をみて…

20200930日記

これほどに何かを楽しみに想うことがあっただろうか。少なくともここ数年来は無かった。降誕祭の日を、あの神秘的な愉しみを待望む気持ちとよく似ている。

三島由紀夫『肉体の学校』1964

元男爵夫人の女性が、美しい顔とからだを持つゲイバーのバーテンに入れ込む話。本作を基にした、ブノワ・ジャコ(Benoît Jacquot)によるフランス映画もある。 話の構成力は流石の一流である。私は小説を読みながら要所要所で話の行きつく先を、つまり結末を予…

グノー「トゥーレの王(Il était un roi de Thulé)」『ファウスト(Faust)』1859

www.youtube.com 『ファウスト』第3幕第6場で歌われる童謡風の歌曲。 Il était un roi de Thuléトゥーレの王は、Qui, jusqu'à la tombe fidèle,死ぬ時まで誠実な方で、Eut(had), en souvenir de sa belle,妃の形見として、Une coupe en or ciselé(vessel)! …

20200927日記

女優竹内結子が亡くなったという。映画『いま、会いにゆきます』で初めて彼女をみて、なんて美しい人なのだろうと思った。私は当時7歳。初恋の人によく似ていたからでもあるのだが、それ以来「好きな女性のタイプは」との質問には「竹内結子のような女性」と…

ルイ・マル『恋人たち(Les amants)』1958

ルイ・マル(Louis Malle)の2作目。『死刑台のエレベーター』に引続き、ジャンヌ・モロー(Jeanne Moreau)を起用。全体を通して使用されるブラームスの弦楽六重奏曲第1番第2楽章の調べに心を掴まれる。 AVかと思うほどのラブシーンが面白い。むつかしい女性の…

ルイ・マル『五月のミル(Milou en Mai)』1990

ルイ・マル(Louis Malle)監督作。音楽をジャズヴァイオリニストのステファン・グラッペリ(Stéphane Grappelli)が担当。若きフランソワ・ベルレアン(François Berléand)も出演している。 1968年5月革命の最中。南仏のブルジョワ一族の、遺産相続の話。5月革…

ルイ・マル『ルシアンの青春(Lacombe Lucien)』1974

ルイ・マル(Louis Malle)監督作。Occupied Franceでの少年の物語。マルが戦争を映画にする時、その舞台は戦場や収容所ではない。そこに彼の創造性があると思う。ルシアン・ラコームという少年は、剛健で野性的。或いは牧歌的で純粋。無知。レジスタンスへの…

ヴァルダ『ジャック・ドゥミの少年期(Jacquot de Nantes)』1991

妻アニエス・ヴァルダ(Agnès Varda)による、ドゥミ少年期の記録。作中に溢れる音楽は、亡き夫へのオマージュだろうか。ドゥミはルイ・マルのような恵まれた環境に生まれた訳ではない。父は息子が芸術の道に進むのを許さなかった(まぁ当然だ)。映画への気持ち…

ヴァルダ『5時から7時までのクレオ(Cléo de 5 à 7)』1962

「ヌーヴェルヴァーグの祖母」アニエス・ヴァルダ(Agnès Varda)監督作。彼女はジャック・ドゥミの妻。音楽をミシェル・ルグラン(Michel Legrand)が担当。

ドゥミ『ローラ(Lola)』1961

京都駅から南に歩き東寺の近く。京都みなみ会館という小さな映画館がある。そこで「ミシェル・ルグランとヌーヴェルヴァーグの監督たち」なる特集が組まれていた。 観たのは『ローラ(Lola)』。「ヌーヴェルヴァーグの真珠」に喩えられる名匠ジャック・ドゥミ…

乗馬検定5級(全乗振)の筆記試験

全国乗馬倶楽部振興協会による技能認定試験の1つ「乗馬検定」。5級は入門であって、3日程度、5~10鞍の騎乗で取得できる。審査は緩い(インストラクター談)。実技面では乗下馬。停止と常歩。そして軽速歩。筆記は馬の性質、馬の手入れ、馬体の名称について問わ…

谷崎潤一郎『細雪』1948

静的で優雅な関西の時の流れ。破滅的な戦争に到る前の最期の静寂。絵巻物をみているかのような物語文学。作者の主観は一切登場しない。『源氏物語』を彷彿とさせる。谷崎自身は『源氏物語』と比較されることを何よりも厭うたようだが。 だが『細雪』と『源氏…

ゴダール『女は女である(Une femme est une femme)』1961

ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)監督作。ベルリン国際映画祭の審査員特別賞を受賞。雰囲気が良い。カラーでみる60年代のパリが最高に洒落ている。ロケ撮影はヌーヴェルヴァーグの真骨頂。