私が悔恨を覚えずにはいられなかったもの、それは自分の犯した過ちではなく、自分が自分の手で却けた喜びの可能性だった。
マルグリット・ユルスナール(Marguerite Yourcenar)が最初に発表した小説。主題を同性愛の問題に置いているのであるが、直接に言及は為されない。
内向的な気質の青年アレクシス。彼は自身の同性愛的傾向について思い詰めていた。彼は若い妻の許を去るために手紙を書き残す。その手紙には彼が「精神と肉体の和解」に至るまでの軌跡が記されていた。
文章のまわりくどさ。主人公の言葉はしばしば迷い、前進を躊躇う。リラダンの、ヘーゲル流の明晰な文章に馴れ親しむ身からすれば、読むのに骨が折れる。が、この小説で評価すべきは、多感な主人公の心のうごきそのままを、ユルスナールは見事に描写しているということなのだ。
カトリックの伝統的価値観に対する疑問が、20世紀前半のフランス文学を貫いているのであろうか。禁書にされてしかるべきものばかり。で、カトリックの禁書目録を捲って初めて知ったのであるが、モーリス・メーテルランクは全作品が禁書に指定されているのだね。なぜ?