Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

ポオ『モルグ街の殺人』1841, 『盗まれた手紙』1845

帰納法の大家、霊妙怪異なエドガー・アラン・ポオ。ポオの美学は感覚的なものではなく、精確無比、理知的計算の上に成り立つ。ポール・ヴァレリーはポオの作品を指して、あの「数学的阿片を決して忘れることはできぬ」と云った。

ポオについて、美の評論家デ・ゼッサントの言葉も引用しておこう。

幻惑的な残酷な筆で、彼はぞっとするような恐怖の情景や、人間の意志がめりめりと音を立てて崩れるところを長々と描写し、あくまで冷静に論理を追って、読者の咽喉をゆるゆると締めあげるのである。読者は、この機械的に組み立てられた高熱の悪夢を前にして、息がつまり、心臓が激しき動悸を打つのを覚える。『さかしま』

 

さて、本日読んだのは、巴里を舞台として、オーギュスト・デュパンなる名推理家が活躍する物語、所謂「デュパンもの」から2篇。「推理小説(The tales of ratiocination)」の先駆けと云われている。デュパンがゐなければ、ホームズもゐなかった。

 

こうした結論に達した以上は(…)、僕らのなすべき仕事はね、この一見不可能らしいことが、事実は、決してそうじゃないということを、証明することでなければならぬ。『モルグ街の殺人』

「一切の通念、また一切の世間承認済みの俗見などというものは、要するに愚劣きわまるものと思って間違いない。なんとなれば、それはすべて俗衆向けにできたものだからである」とデュパン君は、シャンフォールの言葉を引いて、答えた。『盗まれた手紙』

 

f:id:ledilettante:20210823162214j:plain

エドガー・アラン・ポオ(Edgar Allan Poe)1809-1849
米国の小説家。数奇、放浪の生涯を送る。ポオの作品は本国よりも、むしろ欧州でよく受容された。殊にフランス象徴派に與えた影響は多大。