Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

ゴーチエ『オンファール(Omphale: A Rococo Story)』1834

若き日の恋をむしかえしたり、昨日見た薔薇を見直しにいったりするものではない。

短篇小説。壁布に描かれたオンファール(エルメスからヘラクレスを買い取った小アジアの女王)。この絵は、T侯爵夫人にオンファールの服装をあしらったものであった。彼女は夜毎に絵を抜け出し、十七歳の「ぼく」を誘惑する。

オンファールはヘラクレスに糸を紡がせたというが、それを題材とした交響詩サン=サーンスは遺した。ちなみに奉仕の最中、オンファールとヘラクレスは互いの衣装を取替えていたという。何だかエロティックだ。想像逞しくせざる能わず。本短篇にあるのは、こうしたオンファール伝説独特のエロさである。

ゴーチエの作品には深刻な思想がない。あるのは美くしき言葉と、自由闊達な幻想力に由来する、読み物としての面白さである。だからいつでも愉しめる。

 


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