若き日の恋をむしかえしたり、昨日見た薔薇を見直しにいったりするものではない。
短篇小説。壁布に描かれたオンファール(エルメスからヘラクレスを買い取った小アジアの女王)。この絵は、T侯爵夫人にオンファールの服装をあしらったものであった。彼女は夜毎に絵を抜け出し、十七歳の「ぼく」を誘惑する。
オンファールはヘラクレスに糸を紡がせたというが、それを題材とした交響詩をサン=サーンスは遺した。ちなみに奉仕の最中、オンファールとヘラクレスは互いの衣装を取替えていたという。何だかエロティックだ。想像逞しくせざる能わず。本短篇にあるのは、こうしたオンファール伝説独特のエロさである。
ゴーチエの作品には深刻な思想がない。あるのは美くしき言葉と、自由闊達な幻想力に由来する、読み物としての面白さである。だからいつでも愉しめる。