Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

リラダン『ヴェラ(Véra)』1874

ダートル伯爵は鍾愛の妻ヴェラの死を全智にかけて否定し、全く妻の死を意識せざる境地に生活する。神秘的な夢に身を捧げる彼の強い意志は、夫人をして常世より立戻らせた。だが彼が妻の死を自覚した刹那、あなやすべての幻影は空中に紛れ、姿を隠してしまった。己の孤獨を悟り悲観する彼の傍、何かが音を立てて落ちる。それが何であるかを認めた時、彼は「崇高な微笑」でその顔を耀かした。「それは墓場の鍵であった」。

この「鍵」は、ダートルがヴェラを墓所に葬った後、二度とこの場所を訪れまいとする決意から墓の内部に擲った、墓所の鍵である。そしてヴェラが甦った際、彼女が眠る柩の近く石畳の上に認めたのも同様の鍵である。ヴェラはこの鍵を介して、ダートルのもとを訪れた。

「お前の方へ行ける道を教へてくれ」。現実に獨り残され嘆くダートルの手に鍵は渡された。ヴェラがダートルに鍵を遺した真意とは何であろう? ダートルは次にどう行動するであろう? 私が思うに、この鍵は死へのいざなひであり、ダートルは恐らく自殺する。彼は永劫世界でヴェラとひとつになれることを想い、斯く微笑したのだ。

リラダンは「死」について生涯深い瞑想を続けていた。そしてカトリシスムで禁忌の「自殺」について一概に否としていた訳でないことは、『アケディッセリル女王』や『アクセル』を読むに明らかである。「自殺」というテーマを意識しながら『ヴェラ』を読み直すと面白いかもしれない。