Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

リラダン『残酷物語(Contes cruels)』1883、その2

ledilettante.hatenablog.com

ledilettante.hatenablog.com

マーラーの第7番を聴きながら、『残酷物語』再読。「ヴェラ」や「サンチマンタリスム」、「見知らぬ女」など気に入っている小品は幾度となく読み返しているのであるが、この度は全体を通して。

『残酷物語』は作者の、神秘的な憤怒の漲る諷刺と壮麗な夢想とを、交互に愉しむことのできる短篇集。集録作品はいずれも、近代社会の低劣卑俗に対する仮借なき批判と、その原動力たる高度の理想主義とを示す。まったくヴィリエの文章には、人を酔わせる力があるようだ。

なおヴィリエは執筆にあたり、象徴的手法と逆説とを巧みに弄しており、彼と精神的血縁のない人種には、その真意を補足することが容易ではない。

不完全ながら、28篇を「諷刺」と「夢想」のどちらに重きを置いているかで下に分類した。ただ一言に「夢想」といっても、雄大ロマン主義的小説であったり、ポーを彷彿とさせるゴシック小説であったり、高邁な理想の世界を描く超自然的文学であったり、そこは細分化した方がよかったのかもしれない。広義に「美」を主題としている作品を、「夢想」と分類したつもり。

諷刺作品
「ビヤンフィラートルの姉妹」
「民衆の声」
「二人の占師」
「天空広告」
「栄光製造機」
「ヴィルジニーとポール」
「思ひ違ふな」
「豪華無類の晩餐」
「断末魔の吐息の化学的分析機」
「追剥」
「暗い話、更に暗い話し手」
「マリエール」
「トリスタン博士の治療」

 

夢想作品
「ヴェラ」
選ばれし男女の霊妙な恋は「死」をも克服する。
しかし理想への信仰を喪えば、燦然たる夢想は一撃のもとに瓦解する。夢想に対し「お前は死んでいるのだ」と言葉を発したダートル伯爵に残されたものは、唯灰色の現実のみであったが、ヴィリエは死ぬまでこの言葉を口にしなかった。
ポートランド公爵」
「群衆の焦燥」
「サンチマンタリスム」
完璧な作品たるに留まらず、芸術家としてのヴィリエの抱負が、最も率直に端的に表明されている。
「見知らぬ女」
「恋の物語」
「幽玄なる回想」
「告知者」

 

分類困難
アントニー
「最後の宴の客人」
「昔の音楽の秘密」
「人間たらんとする欲望」
「闇の花」
「王妃イザボー」
「前兆」

 

讒言(ざんげん) 他人を陥れるため、ありもしないことを目上の人に告げること
箴言(しんげん) 道徳上の格言や実践的教訓
horsebit loafers 金具飾り付のローファ
井桁(いげた) 井戸の囲い
鴛鴦(えんおう) オシドリのこと。鴛鴦之契(えんおうのちぎり) 夫婦の絆
錬鉄(れんてつ) よくきたえた鉄
庭訓(ていきん) 家庭教育を意味する故事成語
呻吟(しんぎん) 苦しんで呻くこと
蹌踉として よろめくさま戞
戞戞として(かつかつ) 堅い物の触れ合う音がするさま
杵(きね) 穀物脱穀に用いる道具
亭々たる(ていてい) 樹木などが高く聳えるさま
挙措秀抜 立居振舞の優れているさま
穿ち過ぎ(うがち) 物事に深入りしすぎ、反って本質から遠ざかること
沙翁(さおう) シェークスピア
驀地(ましぐら) 激しい勢いで突き進むさま
該博(がいはく) 物事に広く通じていること

顫音(せんおん) トリルの訳語
蒲柳(ほりゅう) 体質がひ弱なこと
旗亭(きてい) 料理屋
海千山千(うみせんやません) 世間の表裏を知り尽くしてずる賢い人
響もす(どよもす) 鳴り響かせる
しとど はなはだしく濡れるさま
霊び(くしび) 不思議なこと
臺(うてな) 花の萼のこと
籬(まがき) 竹や柴などで粗く編んだ垣根
沛然(はいぜん) 雨が勢いよく降るさま
アズラエル 死を司る天使