Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

メーテルリンク『ペレアスとメリザンド(Pelléas et Mélisande)』1892

来る7月新国立劇場ドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』が演じられる。その予習として。

モーリス・メーテルリンク(Maurice Maeterlinck)伯爵の戯曲。ベルギー人の劇作家である彼は、絶対体な力に支配される人間の運命を、光や闇などの象徴(本作がまさにそうだ)や、暗示的な対話によって描き出し、独特の劇形式を完成した。

物悲しいが美くしい。説明的な言辞は殆どないのに、何故かくも美くしい人物の姿が、情景が、克明に浮かんでくるのだろう。舞台は中世ヨーロッパである。だが一見の中世趣味に隠された主題は、個と向き合う"近代人"の不安ではなかろうか。

第三幕第四場の愛の讃歌はいとも甘美。また屠殺場に向う羊の群れの話の象徴性を考えるのは面白い。なおメリザンドは水の精という設定らしい。精に人のこころを呼び覚まさせたペレアスは、そのために命を喪ったのだ。

今度こそ、あのひとをしっかり見収めなくては。(...)僕はあのひとの眼差しをよく見たことが、まだなかったのではないかな。もしもこのままになったのでは、僕には何にも残ってくれない。そう、思い出はどんなにあっても、まるで粗布の袋に水を少し入れて持ってゆくみたいなものだ。