Mon Cœur Mis à Nu

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

リラダン『殘酷物語(Contes cruels)』1883

『残酷物語』は、ヴィリエ・ド・リラダン伯爵が1883年まで種々の雑誌に発表してきた作品に推敲彫琢を施し、そこに未発表の4篇を加えて出版された短篇集である。

「ヴィリエは夢と諷刺の両者から成り立っている」とレミ・ド・グールモンは言う。この『残酷物語』こそは、上記ヴィリエのデュアリテを理解するに適した書である。すなわち所収された28篇のうちに、ブルジョワを裁く笞の響きと、美と理想への一筋の思慕とが、交互に顕れているからだ。

私は何日も前から相変わらず『物語』を読んでいる。そして媚薬を一滴ずつ飲み干した。あらゆる高貴な人生を犠牲に供してまでも夢想を求めてやまぬいかにも胸迫るこの書物は、十全な価値があり、きみはこの作品に不可思議な美の総計を書込んだのだ。なんと至るところに神の言葉! マラルメからリラダンへ、1883年3月20日付書翰

珠玉な所収作品群のなかでも、「ヴェラ」は格別である。
「ヴェラ」は、三島由紀夫が愛し、マックス・デエロオが「幸福の家」「至上の愛」とともに"Contes de beaute supreme”と称した三篇のひとつ。

私の読んだなかで最も神に近い美女をあげろと言われれば、おそらくリラダンの描いた「ヴェラ」をあげるべきでありましょう。三島由紀夫

ヴィリエは本作に対して、彼が「理想の肯定に於て示した熱狂」の総てを注ぎこんでおり、その燦爛玲瓏さは比肩に絶するものである。是非一読頂きたい。

asphyxiation 窒息
売笑婦 売春婦の類語
胼胝(たこ)
窺窬する(きゆ) 身分不相応なことをうかがい望むこと
鉞(まさかり) 斧のこと

一揖 軽くおじきをすること
傍白 内心のつぶやき、脇台詞
劈頭を飾る 最初を飾る
鬻ぐ/販ぐ(ひさぐ) 売る
乳光色(にゅうこう) 白色のぼんやりした光
奥津城(おくつき) 古い墓

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ヴィリエ・ド・リラダン(Comte de Villiers de l'Isle-Adam)1838-89