
晴、炎天溽暑。
ホテルニューオータニの地下、夏の暑さとは無縁の古びた迷宮の一角にあるカフェ、ペシャワールにて、しばらく今日の音楽会のことを考えていた。小暑の夕べにサントリーホールである読響の定期演奏会。曲目はメンデルスゾーン、細川俊夫、ハンス・ツェンダー。
...ツェンダー? 誰だか分らなかった。曲名はSchumann-Fantasie für großes Orchester。本邦初演である。シューマンの幻想曲はよく知っている。3楽章からなるソナタ形式とはいえ、ロマン派時代も真っ只中、伝統と常識に縛られない、自由な文字通りのファンタジーである。
新時代のピアノの可能性を試すため、ピアノのためだけに書かれた曲であって、それをfür großes Orchester、大編成のオーケストレーションにするとは、全く想像が付かなかった。
1997年の作曲ということ、そして細川俊夫(オペラ『松風』の作曲家)の次に置かれていること。どうせ聴くに堪えない現代音楽であろうと高を括っていた。
期待を裏切られた。久しぶりに演奏会で我を忘れて恍惚とした。弦の響の実に豊かな、溌剌としたメロディーに、見事な再構成力。作曲家の力量か、或いは現代人如きがシューマンを台無しにすることはできないということか。演奏会後、ツレと一緒にメロディーを思い出し、口ずさみながら、日が落ちても暑さの引かない街を歩いた。愉快な夜だった。
