Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

ユイスマンス『彼方(Là-bas)』1891

現代世界に厭いているデュルタルが、ジル・ド・レー男爵の研究を通して、超自然的世界をみる。彼は中世キリスト教の世界を理想視し渇望するも、信仰を持つには至らない。
ジル・ド・レーの一代記として読んでいて面白いが、物語としてはどうか。シャントルーヴ夫人の描き方などは可成り拙い。デュルタルを悪魔礼賛の世界に案内するだけの操り人形。

  

文学にはただひとつの存在理由しかない。それは文学にたずさわるものを生活の嫌悪から救うことだ

 

「キリストの降臨をお信じにならないとすると、あなたはいったいなにを希望していらっしゃるのです」
「僕ですか、僕は何も希望していません(…)悲しいかな、僕の信じていることは、年とった神が、この力つきた地上で、なにか譫言をいっているということだけですよ」

 

しかし、信仰とは、君、人生の防波堤だよ。マストを折られた人間が平和に坐礁していられる防波堤だよ

 

デュルタルへの警句。「人生をいまわしいものと考えたからといって、すぐれた人間だとはけっして言えないのだ」。

 

天籟(てんらい) 詩文の調子が自然で、優れていること。「天籟の音色」。
傲岸不遜(ごうがんふそん) おごりたかぶって人を見下すさま。
古反古(ふるほぐ) 古い紙。
ヘリオトロープ(Heliotropium) 香りの強い植物。紫の小さな花を咲かせる。
占星術 天体と人間を経験的に結び付けて占う術
輸卒(ゆそつ) 輸送に従事する兵卒
不身持(ふみもち) 不品行
智天使(ちてんし) ケルビム。子供の姿で描かれる第二位の天使
陽物(ようぶつ) 陰茎