Mon Cœur Mis à Nu

But, darlings, the show must go on.

ロン・ハワード『ヒルビリー・エレジー(Hillbilly Elegy)』2020

1月20日、第2次トランプ政権発足、副大統領はJ.D.バンス。J.D.は'James David'の頭文字であるが、法学博士(Juris Doctor)の意もある。

 

第2次トランプ政権の陣容が、ウォール街のビジネスマン、メディアのセレブリティで占められる中にあつて、バンスの存在は異端である。

 

経歴だけを見れば、バンスもイェール校の法学博士でエリートに違ひないが、彼はアパラチアのレッドネック、要はケンタッキー州にルーツを持つ白人貧困層の出である。こういつた人々を揶揄してヒルビリーと言ふが、これは「田舎の無作法な貧乏人」、「女は十代で妊娠するのが当り前」といふ価値観を有してゐる人々、と言へば想像が付くのではないか。彼らは刺青をし、麻薬を吸ひ、文字が読めない。

 

バンスは、かうした悲惨な(と言つて良いか分からぬが)境遇に生を受け乍ら、「神」の慈悲に導かれ、「家族」の愛に助けられ、負け犬が群れ為す深淵から這ひ出し、米副大統領てふ、これ以上ない程の「アメリカンドリーム」を実現した。分り易いサクセス・ストーリー、トランプ氏は彼を自陣営に引込めて満足だらう。彼はヒルビリーの希望であり、レッドネックへの訴求力はかなりのものだらうと、さう思ひ乍ら映画を観た。

 

翻つて我が国。私とて貧しく、絶望の裡にある人々に邂逅すると、手を差し伸べたくなる。人の自然だ。だが少し冷静に考へると、我が国ほどセーフティーネットワークが充実して、甘つちよろい社会も珍らしく、こんな温室でも生きて行けないとは、一体奴輩はどれほど怠惰で、無能で、腐敗してゐるのだらうと、さういふ気持も湧いて来る。それに貧困問題が根絶されたら、果して社会はよく回るだらうかと、そんな事も思ふ。