Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

『増補フランス文学案内』岩波書店 1989

近頃読書量が落ちている=心が荒んでいることを危惧した私は、アルベール・ティボーデの『フランス文学史』を購入した。読むべき本を見つける為である。ティボーデが届くまでの時間、私は予習として岩波の仏文入門書を再読する事にした。

岩波の入門書は、19世紀のフランス文学を4つの流派に分類し、そこに類する作家を紹介している。

1. ロマン主義...人間性の解放
スタール夫人: 『文学論』
シャトーブリアン: 『ルネ』
コンスタン: 『アドルフ』
セナンクール: 『オーベルマン』
ラマルチーヌ: 『瞑想詩集』
ヴィニー: 『詩人の日記』
ユゴー: 『エルナニ』、『レ・ミゼラブル
ミュッセ: 『世紀児の告白』
ネルヴァル: 『オーレリヤ 夢と人生』
デュマ・ペール: 『三銃士』、『アンリ三世とその宮廷』
デュマ・フィス:  『椿姫』
バルザック:  『人間喜劇』
スタンダール: 『赤と黒』、『パルムの僧院
メリメ: 『カルメン』、『シャルル九世年代記
ゴーチエ: 『モーパン嬢』
ボードレール: 『惡の華』、『パリの憂愁』
リラダン: 『残酷物語』、『未来のイヴ
レオン・ブロワ: 『貧しき女』

 

2. 写実主義...人間と社会の関係を描写
フローベール: 『ボヴァリー夫人
ゴンクール: 『日記(1851-96)』
テーヌ: 『イギリス文学史
ルナン: 『キリスト教起原史』

(高踏派)...アンパッシビテの態度
ルコント・ド・リール: 『真昼』
バンヴィル:  『人像柱』

 

3. 自然主義...人間に自然科学的分析を適用
ゾラ: 『テレーズ・ラカン
モーパッサン: 『脂肪の塊』
ユイスマンス: 『さかしま』

 

4. 象徴主義...描くものを暗示により喚起させる
ヴェルレーヌ: 『言葉なき恋歌』
ランボー: 『飾り絵』
マラルメ: 『現代高踏詩集』

 

綺麗にまとまっている。ロマン主義に分類されている作家をみれば、それは確かに、人間の魂の叫びを、自由に、高らかに謳いあげた面々である。

その一方で、自ずと知れた事ではあるが、強烈な個性を持つ芸術家と云う人種を「派」で括っていく手法の限界も見えてくる。果たしてユゴーとネルヴァルは同類だろうか?

難しいのである。ヴィリエ・ド・リラダンを例に取れば、彼の作風は「ロマン主義的」であり、その意味で上記の分類は正しい。他方でヴィリエを特徴付けるのは完璧を期す格調高き大文章、壮麗な夢を希求する精神、そして「多数者の投票の断念」。これらは象徴派詩人たちとの一致点であって、ヴィリエが「象徴主義的な芸術家であった」ことを認めぬ者はいないのである。