Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

再びダンディに就いて

晴れ。図書館で画集を借りた。レンブラントルーベンス、ワトー、ゴヤドラクロワ、モロー。

 

ダンディ。冷血と尊大と自己統制の国、英国で生れた、ボウ・ブランメルを亀鑑とする不可思議な風流の教へ。仏国に於ては王政復古期、斯の教義が流入した後には、アンシャンレジームのエレガンスは地を払ふの観があつたと云ふ。

 

シャトーブリアンはダンディを斯う観察した。

 

ダンディは意気揚々として傍若無人な態度をとらなければならぬ。身嗜みを凝らし、口髯、もしくは綺麗に円く刈り込んだ顎鬚。自己の性格の傲然たる不羈独立を憚るところなく現し、ソファの上に寝転んで、貴婦人らが嘆賞措く能はぬ様子で前の椅子に坐つてゐるとその鼻先に長靴を突きつける。馬に乗る時は片手にステッキを蝋燭かなんぞのやうに持ち、馬に対しては偶々それが股間に居合せたかのやうに一顧眄も與へない。健康は完璧であり魂は五つか六つの幸福に溢れてゐなければならぬ。ダンディは、自分がこの世に存在してゐて、社交界がそこにあり、女性がそこにゐて、近くの人には挨拶をしなければならぬ、といふやうなことは全然知つてはならぬ様子である。『遺稿回想録』