Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

コンスタン『アドルフ(Adolphe)』1816

人妻に手を出した青年(=語り手)の話。青年は深刻なペシミズムに冒されているが、これはフランス革命後の世紀病に冒された作者コンスタン自身の反映である。近代心理小説の先駆と名高い。
世の常の「恋愛小説」のような情熱がみられるのは3章まで、残りの章(この小説の大部分)にあるのは倦怠。惰性で離れられない男女の姿が描かれている。私は5章に入った時点で、もうこの話を終わらせるには神の救済(=死)しかないなと悟った。そしてその予測は当たった。

人間は余儀なくも絶えず包み隠さなければならない思わくを一つでも胸に持っていたが最後、堕落するものなのである。

 

f:id:ledilettante:20210214040259p:plain
バンジャマン・コンスタン(Benjamin Constant),1767-1830
スイス出身の自由主義政治家として知られる彼は、ロマン主義文学の上でも重要な存在であった。

 

世紀病(Mal du siècle)
絶望、孤独、不安、憂鬱、倦怠、厭世、不信、懐疑、無為、焦燥に裏打ちされた熱狂など、ロマン主義時代の青年達の心を冒し、この時代の文学に特徴的に描き出された精神状態。ゲーテの『若きヴェルテルの悩み』に源を発するが、直接的にはシャトーブリアンの『ルネ』が原型である。