Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

フローベール『ボヴァリー夫人(Madame Bovary)』1857

レアリスムの大作。ロマン的な夢を抱くエンマ・ボヴァリーは、平凡な現実の中で夢を1つ1つ喪い、遂には身を滅ぼす。
汚い現実描写が精緻である。殊にエンマが死にゆく様の描写=装飾のない執拗な穢れの描写には驚いた。死を飾り立てるロマン主義との違いを感じた。

凡庸だが優しいシャルルの恵まれない子供時代を、小説の冒頭に置いてあることが、大変な効果を生んでいるように思う。

 

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ギュスターヴ・フローベール(Gustave Flaubert) 1821-80
"Madame Bovary, c'est moi."との言葉を遺しているように、元来ロマン主義的な性格で、ブルジョワ社会の卑俗さを嫌っていた。しかし、軽蔑の対象である現実社会を書いた『ボヴァリー夫人』によって、逆説的にレアリスムの基盤を確立した。