Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

20210221日記

修学院の方へ散歩。鷺森神社の境内を歩くとほのかに香る白梅に気が付いた。そのまま曼殊院を目指したが、かなりの山道で難儀した。途中武田薬品の薬用植物園を見つけた。なかに洋館(田辺貞吉旧邸というらしい)もみえたので見物したかったが、原則一般公開はしていないらしい。今後も行く機会はないだろう。修学院地域自体、鄙びていてあまり趣味ではなかったから。

その後三条まで戻り丸善へ。リラダンの『未来のイヴ岩波文庫版を購入。復刻版であるから旧字体はそのまま。読了には時間を要しそうだ。

20210217日記

関西の魅力はその多極性にある。京都、大阪、神戸といった中心都市とその周辺都市が各々歴史と文化を持っていて、且つ重要なことに、そこに住む人々がそれを誇りに思っている。云わば、関西の人々は生活にこだわりを持っている。

 

ロラン『ベートーヴェンの生涯(Vie de Beethoven)』1902

ロランが「心に拠って偉大であった」と崇敬する、作曲家L.V.ベートーヴェンの伝記。英雄への渇望を雄弁に物語る。但しロランはベートーヴェンに対する「信仰と愛との証」により、作品中彼を美化していることを認めている。
不幸で貧しく孤独であったベートーヴェン。世の中から「歓喜」を拒まれた彼であったが、その人間がみずから「歓喜」を造り出し、世界への贈り物とした。作者が称えるのは、この勝利である。

 

Durch Leiden Freude.

苦悩を抜けて歓喜に到れ

 

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ロマン・ロラン(Romain Rolland), 1866-1944
集団や時代、さらには人類総体を視野におさめた歴史を描き、社会に対して1つの指針を占めそうとする作品は「大河小説(roman-fleuve)」と呼ばれる。ロランは代表作『ジャン=クリストフ』により、この先駆をなした。1915年にノーベル文学賞を受賞。

コンスタン『アドルフ(Adolphe)』1816

人妻に手を出した青年(=語り手)の話。青年は深刻なペシミズムに冒されているが、これはフランス革命後の世紀病に冒された作者コンスタン自身の反映である。近代心理小説の先駆と名高い。
世の常の「恋愛小説」のような情熱がみられるのは3章まで、残りの章(この小説の大部分)にあるのは倦怠。惰性で離れられない男女の姿が描かれている。私は5章に入った時点で、もうこの話を終わらせるには神の救済(=死)しかないなと悟った。そしてその予測は当たった。

人間は余儀なくも絶えず包み隠さなければならない思わくを一つでも胸に持っていたが最後、堕落するものなのである。

 

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バンジャマン・コンスタン(Benjamin Constant),1767-1830
スイス出身の自由主義政治家として知られる彼は、ロマン主義文学の上でも重要な存在であった。

 

世紀病(Mal du siècle)
絶望、孤独、不安、憂鬱、倦怠、厭世、不信、懐疑、無為、焦燥に裏打ちされた熱狂など、ロマン主義時代の青年達の心を冒し、この時代の文学に特徴的に描き出された精神状態。ゲーテの『若きヴェルテルの悩み』に源を発するが、直接的にはシャトーブリアンの『ルネ』が原型である。



フォーレ『夢のあとで(Après un rêve)』op.7-1


Fauré: Après un rêve, Op. 7, No. 1 (Arr. Viola & Piano)

『3つの歌』op.7の第1曲。フォーレの歌曲中最も有名なのではないか。
歌曲としてのみならずチェロの独奏版としても有名。だが私はヴィオラの独奏をおすすめしたい。
 

3 Songs, Op. 7: No. 1, Après un rêve, "Dans un sommeil que charmait ton image" (Andantino)

僕はこの詩が好きだ。悲恋を経験した人間にやさしい歌だ。

Dans un sommeil que charmait ton image
Je révais le bonheur, ardent mirage,
Tes yeux étaient plus doux, ta voix pure et sonore,
Tu rayonnais comme un ciel éclairé par l'aurore;

君の姿に魅せられた眠りの中で
僕は幸福を夢見ていた、熱烈な幻影を、
君の瞳は優しく、君の声は清らかに響き、
君は黎明に照らされる空のように輝いていた。

 

Tu m'appelais et je quittais la terre
Pour m'enfuir avec toi vers la lumière,
Les cieux pour nous entr'ouvraient leurs nues,
Splendeurs inconnues,lueurs divines entrevues.
君が僕を呼び、僕は地上を離れる
光に向かって君と飛立つため。
天は僕らのために雲をひらいて、
まだ見ぬ栄華、神々しい光が垣間見えた。

 

Hélas! Hélas! triste réveil des songes,
Je t'appelle,ô nuit,rends-mois tes mensonges,
Reviens,reviens radieuse,
Reviens,ô nuit mystérieuse!
あぁ、夢からの哀しい目醒め、
僕はお前に呼掛けよう、夜よ!お前がみせた幻を返しておくれ。
もう一度戻ってきておくれ、輝きよ、
神秘の夜よ!

高踏派、頽唐派、超自然主義について

高踏派(les parnassiens)
主観的で感情過多なロマン主義を克服し、詩における一種のレアリスムともいうべき没個性と不感無覚を標榜する。形式の完璧性を重んじ、民衆の趣味に迎合することを峻拒。テオフィル・ゴーチエ(Théophile Gautier)ルコント・ド・リール(Leconte de Lisle)に代表される。

 

頽唐派(les décadents)
いわゆるデカダンパウル・ブールジェ(Paul Bourget)の定義では、「祖先の美しい夢にいやしがたいノスタルジーを抱き、早熟と悪癖によって内なる生命の源を枯渇させ、とりかえしのつかない己れの不運をたえず醒めた目で裁いている」人々の総称。彼はこの典型をボードレールのうちに見た。

 

自然主義(Supernaturalisme)
当代の実利・実証主義万能を排して、カトリシスム擁護のため闘争し、幻想性をもちこむことにとってロマン派にその文学を結びつける運動。
代表的作家
バルベイ・ドールヴィイ(Barbey d'Aurevilly)
カトリシスムと正統王朝主義を擁護する執拗な活動を行う。Les Diaboliques(74)
ヴィリエ・ド・リラダン(Villiers de l'Isle-adam)
象徴的・神秘的な手法で、物質主義的社会および写実主義作家を告発。現実に対する夢の勝利を高らかに謳う。Axël(90)
レオン・ブロワ(Léon Bloy)
バルベイ・ドールヴィイとの出会いからカトリックに回心、燃えるような信仰の権化に変貌した。Le Désespéré(86), La Femme pauvre(97)

 

 

 

ボードレールについて

ロマン派の場合、感傷に身をゆだね、心情を吐露するときに、いわば偶然的に詩ができる。これに反して近代詩の父であると同時に近代批評の父でもあるボードレールの場合、単なる詩の技巧などというものを越えて、詩の言語や形式の問題について、きわめて意識的・自覚的であった点で、それまでの詩人たちと一線を画している。詩から不純物をいっさい排除して対象から独立させること、そして今まで見えなかったものを見、未聞のものを聞くこと、これこそがボードレールの仕事であった。

『新版フランス文学史白水社1992, p.206