Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

ボードレール「リヒャルト・ワーグナーと『タンホイザー』のパリ公演(Richard Wagner et ≪Tannhäuser≫ à Paris)」1861

1861年皇帝ナポレオン三世の勅命により『タンホイザー』のパリ初演は実現した。しかしボードレールによれば、『タンホイザー』は「聴かれさへしなかつた」。大衆とジャーナリスムの心無い作品非難に対し、ボードレールは雄勁なワーグナー擁護論を張った。

ボードレールに拠れば、『タンホイザー』は「人間の心を主要なる戦場として選んだ二つの根源の闘争、即ち、靈と肉、天国と地獄、神と悪魔の闘争」を表現している。即ちアンチモニーが存在している譯だが、作品の進行につれ、前者は支配を取戻し、そしてフィナーレに於て栄光の勝利を収める。

「真の音楽とは、異なった脳髄のうちに類似の観念を暗示するものである」との考えを有していたボードレール。『タンホイザー』は、喩え詩歌が無かったとしても、万人に「神の勝利」を暗示させる力を持っていた。ゆえに讃嘆に値するのである。

而して『タンホイザー』をしてボードレールの魂を震撼させたものとは、至高の力を以て表現された、宗教的モチーフであった。

 

 

ああ、遂に明日だ。新国立劇場の『ワーグナー』。私を失望させないように。