Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

ゴーチエ『金髪をたずねて(La Toison d'or)』1839

ああ!気の毒な青年よ。きみの蔵書を火に投じ、絵をさき、塑像をくだき、ラファエルやホメロスやフィディアスを忘れてしまいたまえ。おろかしいきみの情熱はどういう効果をもたらすのだ。謙虚な心をもって、きみの愛するものを愛したまえ。

ゴーチエの短篇小説。題名はギリシア神話の『イアソンの金羊毛』とでもすべきところであるが大胆な翻譯である。アントワープの大伽藍。ルーベンスの「十字架の降下」に描かれたブロンドの美女、マグダラのマリアに惚れてしまった審美的な男。彼はある時、マリアと同じ金髪を持った町人の娘を見つける。

アントワープ(仏語読みすればアルヴェルス)の地名が出てきた時、すぐさま『フランダースの犬』が浮かんだのであるが、まさか聖母大聖堂とルーベンスの絵画まで登場するとは。

話を物語に戻そう。主人公は芸術を愛する男であって、そういった輩に共通の宿命を背負っている。つまり、小説家の夢想に惑わされ、詩人が創り出した理想しか知らないということ。そうした性質を持つ彼は、己の理想と眼前の女とを比較の目でみてしまう。それは女を傷つける。彼の心の裡にあるのは極めて利己的な感情であって、「愛」ではないからだ。

私は本作品の主人公ほど高尚な趣味を持っている訳ではないが、彼と同類に違いない。私のような人間に、生身の女を愛する資格などない。

 

たわやめ たをやめのこと。しなやかで優しい女性
柳腰(やなぎごし) 細くしなやかな腰つき
リエット 肉をペースト状にして油脂分と混ぜ合わせた料理。サーモンでも作れる。
石竹(せきちく) ナデシコ科の多年草。ピンクの花を咲かせる。