所在無げな私の前に彼女は現はれた。いはけない天使の笑みを湛へて。彼女は、誕生日には何が嬉しいかと私に訊ねた。君の作るものであれば何でも喜んでと答へると、彼女は笑つた。
腕を貸す仕草をすると彼女はそれに応へた。私たちは並木路を偕に歩いた。久方振りの再会である筈なのに、彼女はそれを意識して居らぬやうであつた。彼女が顔を傾ける度、絹のやうな髪が私を優しく撫でる、それが私には大層いとほしかつた。
私は彼女の手を取つた。その形、温度、質感は、人類の理想のやうに思はれた。やや震へてゐるのでふと彼女の顔を窺ふと、彼女は緊張を告白して、先とは違ふ笑みを見せた。私はその手を己の頬に戴いて暫し後、口付けをした。