Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

20221229日記_離別

晴れ。

ベネディクト16世名誉教皇聖下の命旦夕に迫ると報道有り。聖下はカトリック教会の良心であらせらる。主よ、聖下を暫し現世に留め、聖下をして我々信徒を導かせ給へ。尤も聖下御自らは倏忽に常世へ移ることを願っておいでかもしれぬが。さもあれば聖下の望むままになれよかし。

 

もうひとつ悪い知らせ。
銀座の馴染みの仕立屋が店を閉めるという。二日前に決めたと、店主が言い難くそうに打ち明けた。双瞳に涙を湛えて。

仕方がないですね、といらえた私の対応は冷淡であったかもしれない。だが残念です、或いは続けてくださいと言うこともできまい。無念に思うは店主の方、私の幾倍であるし、畢竟、情で糊口は凌げないからである。

今時美くしいスーツを作ることに情熱を傾ける、気概ある良い仕立屋であった。だが現世のルールはご承知でしょう。崇高な信念を持つ者は弑され、悉皆の美は屠られる。貪婪で浮薄のヒトモドキに阿ることを拒んだ者の、これが最期か。