静的で優雅な関西の時の流れ。破滅的な戦争に到る前の最期の静寂。絵巻物をみているかのような物語文学。作者の主観は一切登場しない。『源氏物語』を彷彿とさせる。谷崎自身は『源氏物語』と比較されることを何よりも厭うたようだが。
だが『細雪』と『源氏物語』との間には、確かに共通点があると私は思う。
それは両者とも、ストーリーは至って低俗であること。くだらない男女の話に終始しているにも関らず「芸術作品」たり得ていること。
これはまさしく谷崎の技量のなせる業であるのだ。
谷崎の豊かな人生経験と深い学識が骨組みとなり、作品を典雅なものへと昇華させているのである。