Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

黑澤明『生きる』1952

近々、黑澤明監督『生きる』のリメイク作品が上映される。カズオ・イシグロの脚本で、英国を舞台にした物語になるという。

本作品観賞中は、日本固有の、済度し難い不変の世相を見ている気分になる。しかし黒澤が作品中で痛烈な非難を浴びせる「死に際に後悔するような生を送る人々」、「厚顔無恥な近代人」というのは、世界のどこにでも居るだろう。また「財産」の嫌な話も出てくる事だし、英国式に作替えても違和感なかろう。こうした題材はカズオ・イシグロの作風と抜群に相性が良いから、期待したい。

それにしても日本の古典映画は、それを観賞し終えた人間に、言い様のない虚しさを残してゆく。これはつまり当時の日本映画が、ドストエフスキーの如くに、「近代人の普遍的な不安」を描破している証左だ。あれ程日本的に見える『東京物語』に西洋人が共感を示すのは、そういう譯である。

 

ひとつ予測。役人共の浮薄さを強調する諷刺的な最期のシーンは、英国版ではカットされるだろう。全体としてheartwarming(薄ら寒い)な仕上がりとなっているに違いない。そうなっていたらスクリーンに唾してやりたい。