アルフォンス・セシェ(Alphonse Séché) とジュル・ベルトゥ(Jules Bertaut)の共著に成る。近代の霊魂の癒し得ぬ悲痛を詠んだ詩人、ボードレールの伝記。
原著の初版は1925年頃であり、その後の研究から訂正されるべき箇所も多く在るだろうが、ボードレールが生きた世紀の雰囲気を、まるで物語のように愉しめる為、一読の価値はあると思う。痛快なミスティフィカシオン〈韜晦〉、ダンディスムとボヘミアニスム、そして晩年の屈辱的な赤貧、病苦、すべてが描かれている。
【引用】
ダンディ(Dandy: 典雅風流の審判者)について
ダンディは、常住不断に崇高ならんことを欣求しなければならぬ。ダンディは鏡の前で生き、かつ、眠らなければならぬ。
自分の幸福の使ひ途を知らない、少数の教養ある若い人、富裕で家族のゐない人を除けば、人生は永劫の苦悩である筈だ
私が、共和主義に賛同するときは、悪と知りつつ悪を為すのだ。私はいふ、革命万歳。これはかういう意味だ、破壊万歳、天罰万歳、死万歳
ダンディの女性観
蕩児は情人になるが詩人は偶像崇拝者になります。
女性を勝手に理想化して偶像と成し神の如く崇め尊ぶのは、ダンディの一習性だろうか? ドールヴィイ然りリラダン然り。情熱が消えた時、ダンディはもはや女性に対して侮蔑と、殆ど嫌悪の情しか感じない。