Mon Cœur Mis à Nu / 赤裸の心

「美」といふものは「藝術」と人間の靈魂の問題である

オスカー・ワイルド『サロメ(Salomé)』1893

オスカー・ワイルドの云わずと知れた戯曲。1891年の巴里滞在中にフランス語で書かれた本作の初出は1893年。フランス語原稿には、『少年十字軍』のマルセル・シュウォッブが手を入れたとか。マタイによる福音第14章、マルコによる福音第6章にある、洗礼者ヨハネの斬首に関する創作。

 

然るにヘロデの誕生日に當り、ヘロデヤの娘その席上に舞をまひてヘロデを喜ばせたれば、ヘロデ之に何にても求むるままに與へんと誓へり。娘その母に唆されて言ふ、「バプテスマのヨハネの首を盆に載せてここに賜はれ」(マタイ14:6-8)

 

「娘その母に唆されて」とあるが、本作に於てサロメは自らの意志で、洗礼者ヨハネの首を所望する。何故サロメヨハネの首を求めたか、と云う点が本作の肝である。

 

世紀末藝術色の強い本戯曲に対し、デカダン気質の作家は総じて高い評価を與ている。ちなみに三島由紀夫がはじめて自ら手にした文学作品は、この『サロメ』であったそう。悪が野放しにされた不純物のない作品、福田恆存の飜譯も良く、読み易かった。

 

 あゝ!あたしはたうとうお前の口に口づけしたよ。

 

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踊るサロメギュスターヴ・モロー