Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

遠藤周作『影に対して』

三田文学に、遠藤周作の未発表小説が掲載されるというので、文芸雑誌をわざわざ購入した。一読してみたが、「世紀病」に冒されたロマン主義者そのものを描いているなという印象。何ら新しいことはない、19世紀初期フランス文学のオマージュ。

 

遠藤の母を巡る体験を基にした自伝的作品。母の人生を回想しつつ、男は自身の生き方を問い直す。

作中「生き方」についての対比がある。
平凡でも家族に人並の倖せを与える父の生き方。
烈しく人生の目的を追い求める母の生き方。
男は、惨めな最後を迎えた母を擁護したい気持ちから父を軽蔑し、「母の生き方」に従おうとするが、上手くはいかず貧乏生活を送る。

本小説の結末。
息子が病にかかり金が入用であるが、男はそれを工面できない。妻は男に対し、父にお金を借りるよう諭すが、男のプライドはそれを許さない。妻は言う。
「あなたには父親を軽蔑する資格なんかない」
「あなたなんか、お父さまぐらいにも、なれないんじゃありませんか」
男は母の惨めな死に顔を思い出す。妻を殴ることもできなかった。

 

希望に満ちた若者に読ませるには酷な作品だ。

 

「欲を言えばきりがないわ。でもあたし、結局、何も起らない、ということが一番、幸福なんじゃないかと近頃思っているの」

 

作中で言及されるセザール・フランクの「ヴァイオリン・ソナタ イ長調」。
 

www.youtube.com

Franck: Violin Sonata / Mutter Orkis (1989 Movie Live)