Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

french literature

リラダン『イシス(Isis)』第一部 1862

ヴィリエが二十四の時の作品。第二部以下は原稿が失われたのか、未完に終わったのか不明。かのボードレールがこの書について賞賛を送ったことが判っているが、その書簡もまた残ってはいない。 聊か短絡な気もするが、若きヴィリエの所信表明とでも云うべきか…

リラダン『残酷物語(Contes cruels)』1883、その2

ledilettante.hatenablog.com ledilettante.hatenablog.com マーラーの第7番を聴きながら、『残酷物語』再読。「ヴェラ」や「サンチマンタリスム」、「見知らぬ女」など気に入っている小品は幾度となく読み返しているのであるが、この度は全体を通して。 『…

メーテルリンク『ペレアスとメリザンド(Pelléas et Mélisande)』1892

来る7月新国立劇場でドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』が演じられる。その予習として。 モーリス・メーテルリンク(Maurice Maeterlinck)伯爵の戯曲。ベルギー人の劇作家である彼は、絶対体な力に支配される人間の運命を、光や闇などの象徴(本作…

アナトール・フランス『赤い百合(Le Lys rouge )』1894

行動や思考に原理がない(面倒くさい)気まぐれ女の情事。エリック・ロメールの映画みたいだと感じた。というのは登場人物がとりとめもなく、種々の事柄について己の哲学を披露する、そんなうざい場面の連続であるから。軟弱な翻譯も災いして、読むのが大変に…

ドールヴィイ『デ・トゥーシュの騎士(Le Chevalier Des Touches)』1864

バルベイ・ドールヴィイらしい「語り」による物語小説。 ledilettante.hatenablog.com バルベイの故郷ノルマンディー、大革命の時代が舞台。 実在するふくろう党(レ・シュワン)の騎士ジャック・デトゥーシュ(Jacques Destouches de La Fresnay)の英雄譚に着…

ゴーチエ『金髪をたずねて(La Toison d'or)』1839

ああ!気の毒な青年よ。きみの蔵書を火に投じ、絵をさき、塑像をくだき、ラファエルやホメロスやフィディアスを忘れてしまいたまえ。おろかしいきみの情熱はどういう効果をもたらすのだ。謙虚な心をもって、きみの愛するものを愛したまえ。 ゴーチエの短篇小…

ゴーチエ『詛いの星をいただく騎士(Le Chevalier double)』1840

ゴーチエ自身も協賛するパリの文芸雑誌、Musée des famillesに発表された短篇小説。題名は直訳すれば「二重の騎士」なのであるが、ストーリーに因んで「詛いの星を戴く」としてある。なかなか趣味の良いことだと思う。 ドッペルゲンガーを主題とする幻想的小…

シュウォッブ『少年十字軍(La Croisade des Enfants)』1896

世紀末から20世紀への過渡期に於て輝く「小さな奇蹟の書」。詩的な短篇小説である。「詩的な」と云うのはつまり、①凝ったストーリーを持たず、②無駄を徹底的に省いた緻密な構成で、③選び抜かれた美くしい言葉が用いられていること。 ヴァンドームとケルンか…

リラダン『未来のイヴ(L'Ève future)』1879

御冗談でせう!「美」といふものは「藝術」と人間の霊魂の問題です! 1880年のこと『ル・ゴロワ(Le Gaulois)』紙上にて、公に発表された。赤貧の貴族ヴィリエ・ド・リラダン唯一の長編小説。反ブルジョワ精神の結晶。私が読んだのは、東京創元社出版、斎藤磯…

アナトール・フランス『神々は渇く(Les Dieux ont Soif)』1912

時系で云えば、ジャコバン派の恐怖政治全盛から、テルミドール9日のクーデタ、ロベスピエール一派の処刑までを描く歴史小説。哲学的でありながら物語としても面白い。ノーベル文学賞作家の力量だろうか。 正義に燃える心を持つが故に人間性を喪う青年、エヴ…

レチフ『パリの夜; 革命下の民衆(Les Nuits de Paris)』1788-94

私はよき秩序の見張りでありたいと思う 18世紀末の小説家レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ(Rétif de La Bretonne)の作。道徳や秩序を重んずる立場をとる作者が、大革命下の民衆社会に入り込み、ありのままを観察。その内容を聴き手に対して語るという形式のルポル…

ゴーチエ『オニュフリユス(Onuphrius)』1832

何だこの気狂い小説は、というのが私の感想であるが、解説を読んで合点がいった。曰く、ロマン派にかぶれた群小詩人たちを揶揄嘲笑した一篇であると。ゴーチエは「気狂い」を描いてみせたのである。

ゴーチエ『死霊の恋(La Morte Amoureuse)』1836

ある僧侶が叙階式で見かけた嬋娟たる女に魅了され、以来夢か現か分からぬ逸楽に身も心も委ねるという話。ポオを彷彿とさせる屍体愛好的傾向。夢とうつしよが優位を競う、後の超自然主義文学を予感させる神秘的主題。ロマンチックな語彙。読み応えがある。 テ…

モリエール『人間嫌い; あるいは怒りっぽい恋人(Le Misanthrope ou l'Atrabilaire amoureux)』1666

主人公のアルセストは、表裏があること(例えばお世辞)を極端に嫌う潔癖な青年貴族。この世間知らずな青年が恋に破れ、人間嫌いを募らせ、俗世間との関わりを絶たんとする所までを描く。 「アルセスト風の」という人間嫌いな性質を形容する言葉がある程、本作…

セシェ, ベルトゥ『ボードレールの生涯(La vie anecdotique et pittoresque de Charles Baudelaire)』1925

アルフォンス・セシェ(Alphonse Séché) とジュル・ベルトゥ(Jules Bertaut)の共著に成る。近代の霊魂の癒し得ぬ悲痛を詠んだ詩人、ボードレールの伝記。原著の初版は1925年頃であり、その後の研究から訂正されるべき箇所も多く在るだろうが、ボードレールが…

リラダン『王位要求者(Le Prétendant)』1866

所謂「幻の書」。1866年に上梓されたと推定されるが、その稿本が発見されたのは1954年。1965年ジョゼ・コルティ社から刊行されたのは、実にヴィリエの死後76年目であった。初期作品らしく存分にロマンティックでありながらも、ヴィリエ作品の一貫した主題、…

リラダン『彼岸世界の話(Propos d’au-delà)』から「崇高なる愛(L'Amour sublime)」「こよなき戀(Le meilleur Amour)」1893

『彼岸世界の話』はヴィリエ最晩年の作を収めた短編小説集である。彼の死後4年目1893年に単行本として上梓された。 「崇高なる愛」1889世俗的な実際家エヴァリスト・ルソー・ラトゥーシュと、崇高なる魂の持主との間には、「愛」の認識について、非常な隔た…

エドマンド・ウィルスン『アクセルの城(Axel's Castle)』1931

米国人文学者による象徴主義についての文学評論。ヴィリエ・ド・リラダンの詩劇『アクセル』の主人公、アクセル・ドーエルスペール伯を、象徴派のあらゆるヒーローたちの典型であると看做し、書名に用いている。 ledilettante.hatenablog.com 象徴主義はロマ…

リラダン『エレン(Elën)』1865

1865年1月14日(私の誕生日!)、ヴィリエが27歳の時に上梓した作品。若きヴィリエの作品に、『トリビュラ・ボノメ』、『未来のイヴ』や『アクセル』の充実感はあるのか?侮る莫れ。本作は崇高なる理想主義者であるヴィリエの本領が、存分に発揮された傑作。 不…

リラダン『新残酷物語(Nouveaux Contes Cruels)』1888

レミ・ド・グールモンが指摘するように、ヴィリエ作品は夢と諷刺の両者から成立っている。『新残酷物語』(1888)は『残酷物語』(1883)に続き、こうしたヴィリエの二面性が交互に愉しめる短篇集。 『寄宿舎友達』諷刺。近代社会の道徳顚倒、拝金主義。『希望に…

リラダン『アクセル(Axël)』1890

斎藤磯雄氏譯、東京創元社。ヴィリエの理想主義的な夢と中世趣味が見事に結晶した詩劇。ヴィリエの死後に出版された。 青春から逃れ、シュヴァルツヴァルトの古城で現身と永劫世界の間に揺れる男。美しき姫サラ(レオン・ブロワの言葉を借りれば、「無限に美…

ユゴー『九十三年(Quatrevingt-Treize)』1873

榊原晃三譯, 潮出版社, 1969年。大革命当時の「ヴァンデの反乱」(1793)を主題として、人間愛に基いた革命精神を謳いあげた大河小説、というより歴史の教科書。大革命当時の風俗やら、風潮やらを知るのには良い。物語終盤、人道主義に駆られたゴーヴァンの内…

リラダン『トリビュラ・ボノメ(Tribulat Bonhomet)』1887

信仰の思想を凌駕せるは猶思想の本能を凌駕せるがごとし -スウェーデンボルグ 東京創元社より斎藤磯雄氏の翻譯で。トリュビラ・ボノメ博士。その心は実用主義、折衷主義、進歩主義で芸術家嫌悪。「白鳥を殺す輩」。そうしたボノメが、不滅の霊魂に関心を寄せ…

ブロワ『リラダンの復活(La Résurrection de Villiers de l'Isle-Adam)』1906

リラダンは『イシス』から『アクセル』に至るまで、この無限に美はしく、天を支へる柱の如く強く、智天使らの上に君臨する者の如く全智にして、神そのものともなるべき女性、即ち、永遠の女性に対する憧憬の夢を犇と心に抱いてゐた 森開社による上梓。ヴィリ…

スタンダール『赤と黒(Le Rouge et le Noir)』1830

副題は「19世紀年代記(Sous-titré Chronique du xixe siècle)」。のちに1830年代記と改められている。1830年代とあるが、実際には七月革命(1830)前夜のフランス社会を描く風俗小説であり、同時に恋愛心理小説。 ナポレオンを崇拝する貧しい青年ジュリアン・…

リラダン『至上の愛(L'Amour suprême)』1886

「流謫」の、「霊魂に冒されし」、「精霊に選ばれし」男女の邂逅、そして告別。ヴィリエの魅力とは何か? それは彼の理想に対する熱である。写実主義を「永遠の田舎者」と諷するだけあって、彼の作品から、俗悪な現世に対する諦念は片鱗も見出だされない。リ…

ユイスマンス『出発(En route)』1895

前作の『彼方』で人工的楽園に浸っていたデュルタルが信仰の道へと「出発」する。これまでの自分自身に対する侮蔑と慚愧に懊悩する男の内心には痛ましいものがある。 霊的自然主義の実践、緻密な細部描写が特徴的。『さかしま』や『彼方』同様、よほど変わり…

ドールヴィイ『罪の中の幸福(Le bonheur dans le crime)』1871

『魔性の女たち』を構成する短篇の1つ。観察者たるドクターが、パリの植物園(Jardin des Plantes)で遭遇した美しい対の男女の罪を、同行者に語って聞かせる。美が罪に勝利するという一例。 私はもうユーラリィではありませんわ。私はオートクレール、彼のた…

ドールヴィイ『ホイスト・ゲームのカードの裏側(Le dessous de cartes d'une partie de whist)』1850

『魔性の女たち(Les Diaboliques)』1874を構成する、会話文体の短篇。語り手がサロンで物語を語ってみせ、聴衆に息詰まる興奮を巻き起こさせる。明らかになる事実は限定的である、何故なら語り手による事件の「主観的な」観察しか、物語に反映されないから。…

フローベール『聖アントワーヌの誘惑(La tentation de saint Antoine)』1874

ブルーゲルの絵画「聖アントニウスの誘惑」に着想を得たフローベールは、30年に渡り、本作品の執筆に取組んだ。 悪魔の誘惑に曝され、その信仰心を試される聖アントニウスを描く。紀元3世紀頃の話であるから、彼の他作品、つまり俗悪な現代社会を舞台とする…