Epistula ad mē

「美」というものは、藝術と人間の霊魂の問題である

french literature

モリエール『人間嫌い; あるいは怒りっぽい恋人(Le Misanthrope ou l'Atrabilaire amoureux)』1666

主人公のアルセストは、表裏があること(例えばお世辞)を極端に嫌う潔癖な青年貴族。この世間知らずな青年が恋に破れ、人間嫌いを募らせ、俗世間との関わりを絶たんとする所までを描く。 「アルセスト風の」という人間嫌いな性質を形容する言葉がある程、本作…

セシェ, ベルトゥ『ボードレールの生涯(La vie anecdotique et pittoresque de Charles Baudelaire)』1925

アルフォンス・セシェ(Alphonse Séché) とジュル・ベルトゥ(Jules Bertaut)の共著に成る。近代の霊魂の癒し得ぬ悲痛を詠んだ詩人、ボードレールの伝記。原著の初版は1925年頃であり、その後の研究から訂正されるべき箇所も多く在るだろうが、ボードレールが…

リラダン『王位要求者(Le Prétendant)』1866

所謂「幻の書」。1866年に上梓されたと推定されているが、その稿本が発見されたのは1954年。1965年ジョゼ・コルティ社から刊行されたのは、実にヴィリエの死後76年目であった。 初期作品らしく存分にロマンティックでありながらも、ヴィリエ作品の一貫した主…

リラダン『彼岸世界の話(Propos d’au-delà)』から「崇高なる愛(L'Amour sublime)」「こよなき戀(Le meilleur Amour)」1893

『彼岸世界の話』はヴィリエ最晩年の作を収めた短編小説集である。彼の死後4年目1893年に単行本として上梓された。 「崇高なる愛」1889世俗的な実際家エヴァリスト・ルソー・ラトゥーシュと、崇高なる魂の持主との間には、「愛」の認識について、非常な隔た…

エドマンド・ウィルスン『アクセルの城(Axel's Castle)』1931

米国人文学者による象徴主義についての文学評論。ヴィリエ・ド・リラダンの詩劇『アクセル』の主人公、アクセル・ドーエルスペール伯を、象徴派のあらゆるヒーローたちの典型であると看做し、書名に用いている。 ledilettante.hatenablog.com 象徴主義はロマ…

リラダン『エレン(Elën)』1865

1865年1月14日(私の誕生日!)、ヴィリエが27歳の時に上梓した作品。若きヴィリエの作品に、『トリビュラ・ボノメ』、『未来のイヴ』や『アクセル』の充実感はあるのか?侮る莫れ。本作は崇高なる理想主義者であるヴィリエの本領が、存分に発揮された傑作に違…

リラダン『新残酷物語(Nouveaux Contes Cruels)』1888

レミ・ド・グルーモンが指摘するように、ヴィリエは夢と諷刺の両者から成り立っている。『新残酷物語』(1888)は『残酷物語』(1883)に続き、こうしたヴィリエの二面性が殆ど交互に愉しめる短篇集。 『寄宿舎友達』諷刺。近代社会の道徳顚倒、拝金主義。『希望…

リラダン『アクセル(Axël)』1890

斎藤磯雄氏譯、東京創元社。ヴィリエの理想主義的な夢と中世趣味が見事に結晶した詩劇。ヴィリエの死後に出版された。 青春から逃れ、シュヴァルツヴァルトの古城で現身と永劫世界の間に揺れる男。美しき姫サラ(レオン・ブロワの言葉を借りれば、「無限に美…

ユゴー『九十三年(Quatrevingt-Treize)』1873

榊原晃三譯, 潮出版社, 1969年。大革命当時の「ヴァンデの反乱」(1793)を主題として、人間愛に基いた革命精神を謳いあげた大河小説、というより歴史の教科書。大革命当時の風俗やら、風潮やらを知るのには良い。物語終盤、人道主義に駆られたゴーヴァンの内…

リラダン『トリビュラ・ボノメ(Tribulat Bonhomet)』1887

東京創元社、斎藤磯雄氏の翻譯。 いかなる意味に於いても「貴族的」ではないトリュビラ・ボノメ。その心は実用主義、折衷主義、進歩主義で芸術家嫌悪。「白鳥を殺す輩」。そんなボノメが、不滅の霊魂に関心を寄せるルノワール夫妻との交流を通して「神秘」に…

ブロワ『リラダンの復活(La Résurrection de Villiers de l'Isle-Adam)』1906

森開社、田辺貞之助譯。ヴィリエの遺した言葉、思想、作品をめぐり、追慕する趣旨。フレデリック・ブルゥ(Frédéric Brou)によるリラダン記念碑(Projet de Monument à Villiers de l'Isle Adam)の披露と同時期に書かれているようだ。その記念碑とは、「光栄の…

スタンダール『赤と黒(Le Rouge et le Noir)』1830

副題は「19世紀年代記(Sous-titré Chronique du xixe siècle)」。のちに1830年代記と改められている。1830年代とあるが、実際には七月革命(1830)前夜のフランス社会を描く風俗小説であり、同時に恋愛心理小説。 ナポレオンを崇拝する貧しい青年ジュリアン・…

リラダン『未来のイヴ(L'Ève future)』1879

御冗談でせう!「美」といふものは「藝術」と人間の霊魂の問題です! 公に発表されたのは1880年のこと『ル・ゴロワ(Le Gaulois)』紙上にて。赤貧の貴族ヴィリエ・ド・リラダン唯一の長編小説。女性観、恋愛観、反ブルジョワ精神の結晶。私が読んだのは、東京…

リラダン『至上の愛(L'Amour suprême)』1886

「永遠の女性」との告別。 ヴィリエの魅力とは何か? それは彼の理想に対する熱である。写実主義を「永遠の田舎者」と諷するだけあって、彼の作品から「俗悪な世に対する諦念」は見出だされない。リラダンが目指したのは夢の勝利。ロマン・ロランは、ヴィリエ…

ユイスマンス『出発(En route)』1895

前作の『彼方』で人工的楽園に浸っていたデュルタルが信仰の道へと「出発」する。これまでの自分自身に対する侮蔑と慚愧に懊悩する男の内心には痛ましいものがある。 霊的自然主義の実践、緻密な細部描写が特徴的。『さかしま』や『彼方』同様、よほど変わり…

ドールヴィイ『罪の中の幸福(Le bonheur dans le crime)』1871

『魔性の女たち』を構成する短篇の1つ。観察者たるドクターが、パリの植物園(Jardin des Plantes)で遭遇した美しい対の男女の罪を、同行者に語って聞かせる。美が罪に勝利するという一例。 私はもうユーラリィではありませんわ。私はオートクレール、彼のた…

ドールヴィイ『ホイスト・ゲームのカードの裏側(Le dessous de cartes d'une partie de whist)』1850

『魔性の女たち(Les Diaboliques)』1874を構成する、会話文体の短篇。語り手がサロンで物語を語ってみせ、聴衆に息詰まる興奮を巻き起こさせる。明らかになる事実は限定的である、何故なら語り手による事件の「主観的な」観察しか、物語に反映されないから。…

フローベール『聖アントワーヌの誘惑(La tentation de saint Antoine)』1874

ブルーゲルの絵画「聖アントニウスの誘惑」に着想を得たフローベールは、30年に渡り、本作品の執筆に取組んだ。 悪魔の誘惑に曝され、その信仰心を試される聖アントニウスを描く。紀元3世紀頃の話であるから、彼の他作品、つまり俗悪な現代社会を舞台とする…

ユイスマンス『彼方(Là-bas)』1891

万事が俗悪で空虚な現代世界に厭いているデュルタルが、ジル・ド・レー男爵の研究を通して、超自然的世界に触れる。彼は中世キリスト教の世界を理想視し渇望するも、信仰を持つには至らない。そんなフラストレーションが描かれている。 ・シャントルーヴ夫人…

ラ・ファイエット夫人『クレーヴの奥方(La Princesse de Clèves)』1678

自然描写が殆どなく、恋愛心理の明晰な分析に集中しており、心理小説の祖と云われている。ラ・ファイエット夫人が生んだ、新たな近代心理小説の伝統は、ラクロ『危険な関係』、コンスタン『アドルフ』、ラディゲ『ドルジュル伯の舞踏会』等に引継がれた。ま…

リラダン『殘酷物語(Contes cruels)』1883

実利主義的なブルジョア社会を告発する短篇小説集。 『ビヤンフィラートルの姉妹』「金を稼ぐこと」を絶対善とする実利主義思想を揶揄した作品。清らかな恋愛や情熱は、金と結びつかなければ「身の堕落」と看做される。 もろもろの行為はかくのごとく形而下…

バタイユ『マダム・エドワルダ(Madame Edwarda)』1941

筋らしい筋のない、ヌーヴォー・ロマンの先行作品というべきもの。男と娼婦の、啓示的な一夜の物語。バタイユは、『聖なる神』という総題のもと、エロティシズムを主題とした三部作を構想していた。本作はその第一部である。 快楽と苦痛、すなわち性と死は根…

ユイスマンス『さかしま(A Rebours)』1884

物語は断片的で、殆どは主人公デ・ゼッサントの芸術論。文学、絵画、室内装飾、花、香水等、多岐にわたって彼のダンディズムが披露される。悍ましいブルジョワ社会から逃れて人工的耽美の世界に沈んだデ・ゼッサント。しかしそれにも嫌気が差すと、彼は漠と…

コクトー『恐るべき子供たち(Les enfants terribles)』1929

ジャン・コクトー(Jean Cocteau)は生涯3作の小説を遺しているが、『恐るべき子供たち』が代表作といってよい。阿片中毒の治療中に僅か17日で書き上げたらしい。感傷的なラストシーンがあまり好きではない。混乱を混乱のままに書いている印象。少年たちの心理…

フローベール『ボヴァリー夫人(Madame Bovary)』1856-57

レアリスムの大作。 ロマン的な夢を抱くエンマ・ボヴァリーは、平凡な現実の中で夢を1つ1つ喪い、遂には身を滅ぼす。 汚い現実描写が精緻である。殊にエンマが死にゆく様の描写=装飾のない執拗な穢れの描写には驚いた。死を飾り立てるロマン主義との違いを感…

ラディゲ『肉体の悪魔(Le diable au corps)』1923

レイモン・ラディゲが16~18歳の間に書かれた小説。すこぶる皮肉な調子で、戦時下の少年(=語り手)の恋愛を描く。少年のエゴイズムに振り回されて女性が破滅を迎えるというストーリーは、コンスタンの『アドルフ』を思わせる。

ラディゲ『ドルヂェル伯の舞踏会(Le bal du comte d’Orgel)』1924(堀口大學訳,1931)

20歳で夭折したレイモン・ラディゲ(Raymond Radiguet)の遺作。背景の描写は最低限に、恋愛心理の純粋な分析にページが割かれている点、ラ・ファイエット夫人の『クレーヴの奥方』を思わせる。文体の面にも硬質な古典主義を指摘することができる。 フランソワ…

シャトーブリアン『アタラ(Atala)』1801

『アタラ』は作者の目論見から『キリスト教精髄』に先んじて発表されたが、翌年同書第3部第6篇として組入れられた。本作には作者がアメリカ大陸に渡り得た見聞が描写されており、そのエキゾチズムが評判を呼んだ。ヨーロッパ諸国では翻訳が相次いだという。 …

シャトーブリアン『ルネ(René)』1802

『キリスト教精髄』の第二部第四編(「情熱の空漠性について(Du vague des passions)」にある挿話。一般的には「世紀病」を表現した典型的な作品と看做されている。欲望が抑圧された結果として生じた孤独、憂愁、厭世に代表されるルネの魂は、シャトーブリア…

ロラン『ベートーヴェンの生涯(Vie de Beethoven)』1902

ロランが「心に拠って偉大であった」と崇敬する、作曲家L.V.ベートーヴェンの伝記。英雄への渇望を雄弁に物語る。但しロランはベートーヴェンに対する「信仰と愛との証」により、作品中彼を美化していることを認めている。 不幸で貧しく孤独であったベートー…