Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

Literature

ネルヴァル『オーレリア(Aurélia ou le rêve et la vie)』1855

睡眠薬をもらう為医者に掛かる。薬さえ手に入ればよいのに、何故医者を介する必要があるのか。詮なき事だ。私の尊大な自尊心は、懊悩や孤独を喋喋と口にすることを決して肯じない。こうして文字におこすことはできるのだが。『ペンは弁より強し』。損な性分…

ドビュッシー「相思の人の死(La mort des amants)」『ボオドレエルの五つの詩(5 Poèmes de Charles Baudelaire)』1889

www.youtube.com ボオドレエル、『惡の華』の第121篇「相思の人の死」という4.4.3.4の十四行詩<ソネット>に、ドビュッシーが曲を付けた。詩は、相思の2人の愛と死、そして復活という主題。詩譯は齋藤磯雄氏のものを参照した。 Nous aurons des lits pleins d…

ベルトラン『夜のガスパール(Gaspard de la nuit)』1842

この稿本には、諧調と色彩のおそらくは新しい技法が數かずおさめてあるのです。 アロイジウス・ベルトラン(Aloysius Bertrand)による詩集。「散文詩」とはすなわち、無韻無脚でありながら詩的律動を感じさせる文章のことを言うが、ベルトランは『夜のガスパ…

中島敦『斗南先生』1942

中島敦による短篇小説、私信と云っても可い。奇言奇行に富む漢学者であった伯父に対する作者のアンビバレントな想いを分析する、心理小説の趣がある。 決して彼が不遇なのでも何でもない。その自己の才能に対する無反省な過信はほとんど滑稽に近い。時に、そ…

中島敦『山月記』1942 感想文

醜悪な現実から目を背けるため書物を読むことが、良い習慣な譯がない。深く夢想に涵れども、一歩書斎を出れば、それは一撃のもとに瓦解する。失望を重ねるうち、人の性は彌々狷介となる。私もそうだ。だがそんな私が自尊心を弑して真っ当に社会生活を営む、…

萩原朔太郎「馬車の中で」詩集『青猫』1923より

仕事で連日伊太利からの客人を饗している。ビジネスライクな英語を聞き、又話していると、美くしい日本語が恋しくなる。酒の酔いが冷めぬままに執筆。 先日丸ビルのサロンにて、松岡多恵女史が歌う、萩原朔太郎の詩による歌曲を聴いて以来、ゆくりなく萩原朔…

リラダン『アケディッセリル女王(Akëdysséril)』1885、再読

ヴィリエによる中篇小説。初出は1885年La Revue contemporaine誌上。『アクセル』や『トレードの戀人』と同様の主題を持つ。すなわち「或る魂が至高の完成に到達し、もはや下降以外にあり得ない」場合、至福の絶巓に於て自ら命を絶つことは美徳足り得るので…

『リラダン=マラルメ往復書翰集』白鳥友彦譯 1975

森開社上梓。ヴィリエ・ド・リラダン伯爵とステファヌ・マラルメの間に交わされた書翰集。互いの存在が、彼岸世界の詩人らをして、しばし現世にとどまる理由にすら成り得た友情。手紙は歯抜けで、内容に満足はしていないが、それでも示唆に富むものであった…

プーシキン『ボリス・ゴドゥノフ(Борис Годунов)』1831

リラダンの所為で急遽オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』を予約した為、その予習(先日の記事参照)。 プーシキンの戯曲。1825年に執筆され、1831年検閲をパスして出版。しかし作中の批判的精神は当局を躊躇させ、舞台上演には更に40年の歳月を要した。岩波書店、佐…

リラダン『遺稿断章』1

リラダン研究書の閲覧申請を断られた。落澹のあまりに、その三流大学図書館とレファレンスの婢女とを罵り且つ呪い(無論心の中で)、腹癒せに来月のオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』の最上席を予約した所で、何とか腹の蟲は治まった。本の方は£70で英国から輸入…

マラルメ『ヴィリエ・ド・リラダン(Villiers de l'Isle-Adam. Conférence par Stéphane Mallarmé)』1890

ヴィリエを偲ぶステファヌ・マラルメによって、1890年2月にベルギーで行われた講演のテキスト。その翻譯の森開社による上梓。随分と前に神保町の田村書店で購入して目を通したが、覚書を遺していなかった。翻譯が拙く読み難いテキストである。 彼の読書量は…

リラダン『脱走(L'Evasion)』1887

一幕からなる散文の劇。エピグラムはヨハネ傳福音書から「ラザロよ、出で来れ」。ここに云うラザロは、ルカ傳第16章の貧しき者とは別人。ベタニヤのマリヤ、マルタの兄弟で、イエスの友人。ラザロは病に拠りて一度死ぬが、墓におかれて四日を経たころ、イエ…

コナン・ドイル『ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)』1891

シャーロック・ホームズシリーズの映像化作品は数多ある。しかし、ジェレミー・ブレットを起用した英国グラナダテレビジョン制作のドラマシリーズは特別である。これほど満足に為された映像化作品は他にない。描写される風景、人物の風貌、台詞の細部に至る…

リラダン『新世界(Le Nouveau Monde)』1880

ヴィリエ・ド・リラダンによる五幕、散文の戯曲。1875年アメリカ獨立記念を祝して催された脚本コンクールへの応募作品。賞金1萬フラン!応募作品約100篇の中から、ヴィリエの『新世界』が最優秀作として択ばれた。 「綱領」の存するコンクールに提出されただ…

リラダン『奇談集(Histoires insolites)』1888

作者の死の前年に刊行、ニ十篇を纏めた小品集。その前半はエドガー・アラン・ポーを彷彿とさせる奇譚が(そもそも本題からしてポーのHistoires extraordinairesに案を得たものとする考察もある)、後半はカトリックのモチーフ、例えば施し、戦闘的カトリック、…

モーリアック『イエスの生涯(Vie de Jésus)』1936

www.youtube.com フランソワ・モーリアック(François Mauriac)が遺したイエス伝。共観福音書(特にルカ伝福音書)と第四福音書とを豊富に引用し、彼の解釈を加えて、イエスの生涯が語られる。解釈と云えば、殊にイスカリオテのユダの心理に関する記述が独創的…

ラ・ロシュフコー『寸鐵(The maxims and reflections)』

寸鐵...短くて人の胸をつく語句。警句。警護。 ラ・ロシュフコー公爵は17世紀フランスの軍人、政治家。策謀の貴族社会に於いてリシュリュー卿やマザラン卿と対立し、辛酸を嘗めた経験を持つ。そんな彼の遺した箴言集、すなわち本書は、人生の真理を道破する…

リラダン『アケディッセリル女王(Akëdysséril)』1885

ヴィリエによる中篇小説。初出は1885年La Revue contemporaine誌上。ヴィリエは「死」について生涯深い瞑想を続けており、その思考は彼の諸作品に反映されている。それは『アケディッセリル女王』に於ても例外ではなく、本作品で明らかにさるヴィリエの「自…

リラダン『アクセル(Axël)』1890 再読

余暇を利用してヴィリエ・ド・リラダンの『アクセル』を再読。ヴィリエの精神的な遺書とも呼べる本作品は、至高の理想主義に彩られ、至純の美に耀く。 ledilettante.hatenablog.com さる公爵家の最後の娘サラ・ド・モーペールは、年古る尼僧院にて、修道の誓…

リラダン『反抗(La Révolte)』1870

短い生涯のうち四年の間、おのが精神力を抑へつけてやつた妥協が、その精神力を弱めてしまつた!今更どうしやうもない!(...)試練は終つた。わたくしは敗れた。 リラダンによる三幕からなる戯曲。1868年、作者三十歳の時に創作されたと推定されている。1870…

リラダン『幸福の家(La Maison de Bonheur)』1885

この二つの魂は、曙の光を見ぬうちから、生まれながらの純潔に耀いて、あたかも郷愁に悩むがごとく、「天上」の事物をのみひたぶるに慕ひ求むる一種遣瀬なき情熱を授けられて、その姿を現したのであつた。 リラダンによる短篇。初出は1885年『ラ・ルビュー・…

ゴーチエ『ある夜のクレオパトラ(Une nuit de Cléopâtre)』1838

画家や音楽家ほどめぐまれない、われわれ文筆の徒は、対象をひとつひとつ書いてゆくより仕方がないのだ。 テオフィル・ゴーチエの中短篇。我々には想像のつかない、古代エジプト、プトレマイオス朝の幻想的奢侈を、見えるものとして描き出す。女性崇拝の書。…

フォーレ「贈物(Les Présents)」『2つの歌(2 Mélodies)より』op.46-1, 1887

www.youtube.com 数あるフォーレの歌曲の1つである。詩はヴィリエ・ド・リラダンのもの。『残酷物語』に集録される「恋の物語」の第3篇、「贈物」が出典。「恋の物語」に集録されている7篇の詩は、恋愛の眩惑、歓び、苦悩、そして忘却に至るまでをうたうので…

澁澤龍彦『ジル・ド・レエ候の肖像』1961

ド・レエ男爵の為人や、ティフォージュの居城で冒した罪そのものを記した書にあらず。むしろ時代背景など、ド・レエ男爵の周辺に、記述は集中している。ド・レエ男爵の一代記が読みたければ、脚色はあれど、ユイスマンスの『彼方』の方がよほど良い。 ledile…

ゴーチエ『オンファール(Omphale: A Rococo Story)』1834

若き日の恋をむしかえしたり、昨日見た薔薇を見直しにいったりするものではない。 短篇小説。壁布に描かれたオンファール(エルメスからヘラクレスを買い取った小アジアの女王)。この絵は、T侯爵夫人にオンファールの服装をあしらったものであった。彼女は夜…

ユルスナール『アレクシス あるいは空しい戦いについて(Alexis ou le Traité du vain combat)』1929

私が悔恨を覚えずにはいられなかったもの、それは自分の犯した過ちではなく、自分が自分の手で却けた喜びの可能性だった。 マルグリット・ユルスナール(Marguerite Yourcenar)が最初に発表した小説。主題を同性愛の問題に置いているのであるが、直接に言及は…

リラダン『イシス(Isis)』第一部 1862

あなたがあの女の中で愛していらっしゃるものは、実はあなたの願望の実体なのです。『未来のイヴ』 ヴィリエが二十四の時の作品。第二部以下は原稿が失われたのか、未完に終わったのか不明。かのボードレールがこの書について賞賛を送ったことが判っているが…

ベックフォード『ヴァテック(Vathek)』1782

ウィリアム・トマス・ベックフォード(William Thomas Beckford)作。1782年に仏語で執筆され、1786年に上梓された。22,3歳の頃、3日2晩をかけて不眠不休で書き上げたと作者は嘯いている豪語するが、真偽のほどは。 本作はゴシック小説の金字塔と名高い。異常…

リラダン『残酷物語(Contes cruels)』1883、その2

ledilettante.hatenablog.com ledilettante.hatenablog.com マーラーの第7番を聴きながら、『残酷物語』再読。「ヴェラ」や「サンチマンタリスム」、「見知らぬ女」など気に入っている小品は幾度となく読み返しているのであるが、この度は全体を通して。 『…

メーテルリンク『ペレアスとメリザンド(Pelléas et Mélisande)』1892

来る7月新国立劇場でドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』が演じられる。その予習として。 モーリス・メーテルリンク(Maurice Maeterlinck)伯爵の戯曲。ベルギー人の劇作家である彼は、絶対体な力に支配される人間の運命を、光や闇などの象徴(本作…