Epistula ad mē

美というものは、芸術と人間の霊魂の問題である

Literature

リラダン『イシス(Isis)』第一部 1862

ヴィリエが二十四の時の作品。第二部以下は原稿が失われたのか、未完に終わったのか不明。かのボードレールがこの書について賞賛を送ったことが判っているが、その書簡もまた残ってはいない。 聊か短絡な気もするが、若きヴィリエの所信表明とでも云うべきか…

ベックフォード『ヴァテック(Vathek)』1782

ウィリアム・トマス・ベックフォード(William Thomas Beckford)作。1782年に仏語で執筆され、1786年に上梓された。22,3歳の頃、3日2晩をかけて不眠不休で書き上げたと作者は嘯いている豪語するが、真偽のほどは。 本作はゴシック小説の金字塔と名高い。異常…

リラダン『残酷物語(Contes cruels)』1883、その2

ledilettante.hatenablog.com ledilettante.hatenablog.com マーラーの第7番を聴きながら、『残酷物語』再読。「ヴェラ」や「サンチマンタリスム」、「見知らぬ女」など気に入っている小品は幾度となく読み返しているのであるが、この度は全体を通して。 『…

メーテルリンク『ペレアスとメリザンド(Pelléas et Mélisande)』1892

来る7月新国立劇場でドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』が演じられる。その予習として。 モーリス・メーテルリンク(Maurice Maeterlinck)伯爵の戯曲。ベルギー人の劇作家である彼は、絶対体な力に支配される人間の運命を、光や闇などの象徴(本作…

アナトール・フランス『赤い百合(Le Lys rouge )』1894

行動や思考に原理がない(面倒くさい)気まぐれ女の情事。エリック・ロメールの映画みたいだと感じた。というのは登場人物がとりとめもなく、種々の事柄について己の哲学を披露する、そんなうざい場面の連続であるから。軟弱な翻譯も災いして、読むのが大変に…

ブルフィンチ『中世騎士物語(The Age of Chivalry)』1858

19世紀アメリカの作家トマス・ブルフィンチ(Thomas Bulfinch)。彼は無教養なアメリカ人の為、英国はじめヨーロッパの神話や伝承、文学を、平易な文章に直して紹介した。そのひとつThe Age of Chivalryは、アーサー王と円卓の騎士を中心に扱ったもの。 アーサ…

ドールヴィイ『デ・トゥーシュの騎士(Le Chevalier Des Touches)』1864

バルベイ・ドールヴィイらしい「語り」による物語小説。 ledilettante.hatenablog.com バルベイの故郷ノルマンディー、大革命の時代が舞台。 実在するふくろう党(レ・シュワン)の騎士ジャック・デトゥーシュ(Jacques Destouches de La Fresnay)の英雄譚に着…

泉鏡花『化銀杏』1896

鏡花の短篇。「銀杏」は「銀杏返し」のことを言っている。解説に「自立した女ないし女の自立に対する共感的な関心」が本作にはあると述べられているが、この見方には賛同しかねる。強調されているのは女の不貞と、自己中心主義である。婚姻を軽んじ自立を図…

泉鏡花『海城発電』1896

短篇小説。鏡花が描く非日常の世界に、読者は数頁のうちに取込まれる。 軍人が捕虜となった後帰還した赤十字の看護員を尋問する。軍人は、支那兵相手に立派に己が職務を全うしてきた看護員を、非愛国的、国家の観念が欠如していると責めるが、看護員は意にも…

泉鏡花『外科室』1895

その時の二人がさま、あたかも二人の身辺には、天なく、知なく、社会なく、全く人なきが如くなりし。 短篇小説。一度目をかわしただけで恋に落ちた男と女が、幾年の後、外科医師と患者の伯爵夫人として再会し、愛に殉ずる。 文庫にして18頁しかない。この短…

ゴーチエ『金髪をたずねて(La Toison d'or)』1839

ああ!気の毒な青年よ。きみの蔵書を火に投じ、絵をさき、塑像をくだき、ラファエルやホメロスやフィディアスを忘れてしまいたまえ。おろかしいきみの情熱はどういう効果をもたらすのだ。謙虚な心をもって、きみの愛するものを愛したまえ。 ゴーチエの短篇小…

ゴーチエ『詛いの星をいただく騎士(Le Chevalier double)』1840

ゴーチエ自身も協賛するパリの文芸雑誌、Musée des famillesに発表された短篇小説。題名は直訳すれば「二重の騎士」なのであるが、ストーリーに因んで「詛いの星を戴く」としてある。なかなか趣味の良いことだと思う。 ドッペルゲンガーを主題とする幻想的小…

シュウォッブ『少年十字軍(La Croisade des Enfants)』1896

世紀末から20世紀への過渡期に於て輝く「小さな奇蹟の書」。詩的な短篇小説である。「詩的な」と云うのはつまり、①凝ったストーリーを持たず、②無駄を徹底的に省いた緻密な構成で、③選び抜かれた美くしい言葉が用いられていること。 ヴァンドームとケルンか…

『細雪』に倣う京の花見

京で桜の見事な場所と云えば? 円山公園か、平安神宮か、御所か、御室か、嵐山か。若い人は哲学の道や鴨川を挙げるかもしれない。まあ至る所に名所はある。だから観て回るのが難しい。特に嵯峨の方は。 谷崎潤一郎は『細雪』の中で、洛中及び嵯峨野の桜を見て…

リラダン『未来のイヴ(L'Ève future)』1879

御冗談でせう!「美」といふものは「藝術」と人間の霊魂の問題です! 1880年のこと『ル・ゴロワ(Le Gaulois)』紙上にて、公に発表された。赤貧の貴族ヴィリエ・ド・リラダン唯一の長編小説。反ブルジョワ精神の結晶。私が読んだのは、東京創元社出版、斎藤磯…

アナトール・フランス『神々は渇く(Les Dieux ont Soif)』1912

時系で云えば、ジャコバン派の恐怖政治全盛から、テルミドール9日のクーデタ、ロベスピエール一派の処刑までを描く歴史小説。哲学的でありながら物語としても面白い。ノーベル文学賞作家の力量だろうか。 正義に燃える心を持つが故に人間性を喪う青年、エヴ…

レチフ『パリの夜; 革命下の民衆(Les Nuits de Paris)』1788-94

私はよき秩序の見張りでありたいと思う 18世紀末の小説家レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ(Rétif de La Bretonne)の作。道徳や秩序を重んずる立場をとる作者が、大革命下の民衆社会に入り込み、ありのままを観察。その内容を聴き手に対して語るという形式のルポル…

マーク・トウェイン『不思議な少年(The mysterious stranger)』未完成

正気の人間で幸福だなんてことはありえないんだよ。 『トム・ソーヤーの冒険』で名の知られているマーク・トウェイン(Mark Twain)晩年の作品。サーカズムとヒューマニズムを駆使して、人間の醜さ、卑小さを告発する。ペシミスティックな作品。彼は大したスト…

ゴーチエ『オニュフリユス(Onuphrius)』1832

何だこの気狂い小説は、というのが私の感想であるが、解説を読んで合点がいった。曰く、ロマン派にかぶれた群小詩人たちを揶揄嘲笑した一篇であると。ゴーチエは「気狂い」を描いてみせたのである。

ゴーチエ『死霊の恋(La Morte Amoureuse)』1836

ある僧侶が叙階式で見かけた嬋娟たる女に魅了され、以来夢か現か分からぬ逸楽に身も心も委ねるという話。ポオを彷彿とさせる屍体愛好的傾向。夢とうつしよが優位を競う、後の超自然主義文学を予感させる神秘的主題。ロマンチックな語彙。読み応えがある。 テ…

モリエール『人間嫌い; あるいは怒りっぽい恋人(Le Misanthrope ou l'Atrabilaire amoureux)』1666

主人公のアルセストは、表裏があること(例えばお世辞)を極端に嫌う潔癖な青年貴族。この世間知らずな青年が恋に破れ、人間嫌いを募らせ、俗世間との関わりを絶たんとする所までを描く。 「アルセスト風の」という人間嫌いな性質を形容する言葉がある程、本作…

谷崎潤一郎『少将滋幹の母』1950

うつつにて誰ちぎりけむ定めなき夢路にまよふ我は我かは 若妻を奪われた老翁と、母を奪われた子の話。古典からの引用と、谷崎の創作とが巧に織り交ぜられ、ひとりの美くしき女性を巡る艶めかしい物語に仕上っている。谷崎の深い学識に感嘆させられる。

鷲田清一『京都の平熱 哲学者の都市案内』2013

講談社学術文庫。 下京の生まれである、京都大学哲学科教授が著者。著者が市バスの206系統に沿うて、京都のあちらこちらを案内してくれる。神社仏閣の由緒を云々する本では決してなくて、京都の在り方、人間社会の在り方についての主張。 やや60~70年代への…

ヘッセ『車輪の下(Unterm Rad)』1905

周囲の大人からの一方的な期待を背負い、機械的に応え続けてきた少年。最も感じやすい危険な少年時代を壓迫のうちに過ごした彼は、やがて心を壊す。彼は事故死した。しかし、それは偶然ではなく必然的な死であったに違いない。 痛々しく寂しい。人間が生涯を…

ゲーテ『若きウェルテルの悩み(Die Leiden des jungen Werthers)』1774

岩波の竹山道雄譯を読んだ。良い本だ、人にも薦めやすい。 愛してはならぬ女を愛して、苦しむウェルテル。ロマン派時代の、人間の自我への目覚めを、この一青年の懊悩を通してみることができる。 不徳な描写もあるはあるが、牧歌的、道徳的な雰囲気。そう、…

ワイルド『ドリアン・グレイの肖像(The Picture of Dorian Gray)』1890

本作品は退廃的な哲学を完成させる為の書にあらず、むしろ倫理的な側面が強いように思われる。肖像画はドリアン・グレイの良心、物語の結末が示すのは、モラルの勝利に他ならない。そういう意味で本作は、『サロメ』ではなく、『幸せな王子』と同じ系譜にあ…

堀洋一『ボウ・ブランメル(Beau Brummell)』1979

生涯が美しくあるためには、その最期は悲惨でなければならない オスカーワイルド 牧神社上梓。ボウ・ブランメルの伝記。ちょっとした服飾史を兼ねている。内容の殆どが先行研究の受売りで、とても学術論文には為らないだろうが、ブランメルのパブリック・ス…

ダンディズムとは何か? 生田耕作『ダンディズム 栄光と悲惨』1995

中央公論新社。底本は1975年に他社から上梓された評論。典雅の士ジョージ・ブランメルのアネクドートを持ち出して、ダンディズムを問う。ブランメルが体現し、ボードレールとドールヴィイが理論化した「ダンディズム」。さながら神の愛を体現したイエス・キ…

セシェ, ベルトゥ『ボードレールの生涯(La vie anecdotique et pittoresque de Charles Baudelaire)』1925

アルフォンス・セシェ(Alphonse Séché) とジュル・ベルトゥ(Jules Bertaut)の共著に成る。近代の霊魂の癒し得ぬ悲痛を詠んだ詩人、ボードレールの伝記。原著の初版は1925年頃であり、その後の研究から訂正されるべき箇所も多く在るだろうが、ボードレールが…

ポオ『ウィリアム・ウィルソン(William Wilson)』1839

ドッペルゲンガーを扱った話。さる良家出の主人公は、寄宿学校で自身と瓜二つの少年と出逢う。以来主人公が悪徳に走る時、このドッペルゲンガーは決まって彼の前に表れ、彼を邪魔するのであった。 このドッペルゲンガーについて、彼の良心が具現したものと捉…