Epistula ad mē

美というものは芸術と人間の霊魂の問題である

Films

ヴェンダース『都会のアリス(Alice in den Städten)』1973

晴れ。銀座三越で買ひ物中、大学時代の友人2人から電話、新橋にゐるから飲まうと。休日の新橋は白けてゐるので、新宿に移動し、バガボンドでグラスを傾ける。いつもこの店だ、この店が無ければ私はどうなるのか。 新文芸坐でヴィム・ヴェンダース特集があつ…

アラン・コルノー『めぐり逢う朝(Tous les matins du monde)』1991

藝術家は美に對する精妙な感性があればこそ藝術家なのだが、この感性には同時にまた、あらゆる醜あらゆる不均衡に對する精妙な感性が含まれてゐる。詩人は不正のないところに決して不正を見ないが、俗眼には何も見えぬところに屡ゝ不正を視る。詩人の過敏と…

パトリス・ルコント『メグレと若い女の死(Maigret)』2022

晴れ、喜びの主日。入祭唱には『久しく待ちにし』が歌われた事だろう、欠席したから真偽は判らぬが。行きつけの仏蘭西料理店で食事。シェフとマダムに年の瀬の挨拶を済せた後、木枯らしが散した枯葉の上を逍遥し乍ら、来週に迫った羇旅の事を考えていた。旅…

ヤノット・シュワルツ『ある日どこかで(Somewhere in time)』1980

B級映画の名作、ファンは根強いと聞く。脚本、映像、衣装、家具調度すべてが浅薄低劣なのだが、それが逆に良いらしい。『シベリア超特急』略して"シベ超"みたいなものだろう。 対照的に、クリストファー・プラマーを咬ませ犬に起用するという、不思議な奢侈。

パトリス・ルコント『仕立て屋の恋(Monsieur Hire)』1989 

見了えた後に良かったと感じても、二度と見直す事がない映画がある一方で、ふとした時に(それは大抵さよ更ける頃の衝動だが)、何度も見直してしまう映画がある。 私が後者に挙げるのは、例えば『男と女(un homme et une femme)』、『鬼火(Le Feu follet)』、…

セルゲイ・ボンダルチュク『ワーテルロー(Waterloo) 』1970

イタリアとソ連の合作映画。セルゲイ・ボンダルチュク監督作。皇帝ナポレオンとウェリントン公爵、両者の司令官としての矜持が描かれる。 ソ連軍の協力の下、恐らく何千何万というエキストラを使って撮影した合戦のシーンは流石に見応えがある。CG頼りのお粗…

リドリー・スコット『ナポレオン(Napoleon)』2023

先日公開のリドリー・スコット『ナポレオン』を池袋東宝で鑑賞。全篇英語故に"Long Live the Republic!"や、"Long Live the Emperor!"と云う、まず英語では聞かない台詞が面白い。 リドリー・スコットは『決闘者』の頃から何も変わらない。彼の粘着質・怪奇…

宮崎駿『君たちはどう生きるか(The Boy and the Heron)』2023

公開中のジブリ映画『君たちはどう生きるか』を劇場で鑑賞。吉野源三郎の同名小説からの類推で、リアリスムに基いた作品だと勝手に想像してゐた。記録を残す迄もないと思つたが、一応。 始まりは或る意味「期待通り」だつた。堀辰雄的な世界、即ち格子窓とエ…

キューカー『マイ・フェア・レディ(My fair lady)』1964

私にとつてミュージカル映画と云へば『マイ・フェア・レディ』である。"Wouldn't it lovely"、"On the street where you live"。日常でつひつひ口遊んでしまふ、キャッチ―な旋律が澤山。 How do you do. 若き頃のジェレミー・ブレット。彼は1933年生れだから…

マイケル・ホフマン『終着駅 トルストイ最後の旅(The Last Station)』2009

マイケル・ホフマン監督作。レフ・トルストイの晩年、妻ソフィアとの夫婦関係を描く。ヘレン・ミレンが綺麗。トルストイを演じたのは『サウンド・オブ・ミュージック』のクリストファー・プラマー、もう見た目では彼と分らない。 私の心に響かなかつた。重厚…

ルイ・マル『鬼火(Le Feu follet)』1963

花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに 外は変わらず暑い。主日のミサをサボタージュ、音楽を喪った教会は私を惹付けない。昼餉はいつものフランス料理屋で。クリュディテが美味しい。マダムと夏のjauntについて会話してすぐ帰宅…

アントチャク『ショパン 愛と哀しみの旋律(Chopin: Desire for Love)』2002

ポーランドを代表する芸術家の半生を描く。『アマデウス』と同じノリで鑑賞をしたのだが酷い映画だった。ショパンの美くしい音楽を用いている筈なのに映画は美くしくない。それは知性、品格、歴史へのリスペクトなど、芸術を構成する一切のものが缺けている…

ミロス・フォアマン『アマデウス(Amadeus)』1984

特に、天才を排す—近代の標語 ヴィリエ・ド・リラダンに『二人の占師』という小篇がある。世に出たければ凡庸であれというマクシムを遺した皮肉な作品なのだが、『アマデウス』の鑑賞が、私にそれを思い出させた。畢竟天才の行き着く先はいつの時代も共同墓…

ハーマナス『生きる LIVING(Living)』2022

オリヴァー・ハーマナス(Oliver Hermanus)監督、カズオ・イシグロの脚本による黒澤明監督『生きる』1952のリメイク。 ledilettante.hatenablog.com 1953年の英国。London County Hallに務める定年間際の凡庸な役人。生気の無い姿はMr. Zombieと渾名さる程。…

ウォレス『仮面の男(The Man in the Iron Mask)』1998

ランダル・ウォレス監督作。ルイ13世~14世時代の鉄仮面伝説と三銃士物語(Les Trois Mousquetaires)に着想を得た本作。ジョン・マルコヴィッチ、ジェラール・ドパルデュー、『ミッション』のジェレミー・アイアンズ。矢鱈に俳優が豪華だが、節操無く、不快な…

ラプノー『シラノ・ド・ベルジュラック(Cyrano de Bergerac)』1990

ジャン=ポール・ラプノー監督作。ラプノーは寡作だが、ルイ・マル作品の助監督や脚本を務めており、その実力は折り紙付き。本作は1991年のセザール賞を獲得。シラノをジェラール・ドパルデュー、ロクサーヌをアンヌ・プロシェが演じる。コメディ・フランセー…

モーリス・ピアラ『悪魔の陽の下に(Sous le soleil de Satan)』1987

モーリス・ピアラ監督作。1987年のパルム・ドール、フランス人監督の作品に同賞の與へらるは、1966年クロード・ルルーシュ『男と女』以来、實に21年ぶりの事であった。 『ダントン』、『終電車』のジェラール・ドパルデュー(Gérard Depardieu)、『冬の旅』、…

ジョフィ『ミッション(The Mission)』1986

ローランド・ジョフィ監督。1986年のパルム・ドール。史実に基づいて18世紀南米に於けるイエズス会のミッションを描く。ロバート・デニーロ、ジェレミー・アイアンズが出演。 イエズス会の宣教師と先住民グアラニー族との交わりが、スペイン帝国、ポルトガル…

溝口健二『噂の女』1954

溝口健二監督作。田中絹代、久我美子の出演。 ただのメロドラマと思わせて、やはりそれだけでは終わらない。男に利用される女、女の生涯を扱ったら一流の溝口の手腕だ。 北白川に家をみにゆく描写があるが、そこは大文字山を望む、本当の北白川でのロケ。女…

アラン・カヴァリエ『テレーズ(Thérèse)』1986

アラン・カヴァリエ監督作。リジューの聖テレーズ(日本では「幼なきイエスの聖テレジア」として知られている)の生涯を、彼女自身の自伝"Histoire d'une âme"に基づき、映像化した作品。1986年カンヌの審査員賞、1987年セザール最優秀作品賞。 彼女は幼少の頃…

ベッソン『ニキータ(Nikita)』1990

リュック・ベッソン監督作。 アンヌ・パリロー演じるニキータのショートヘアに「1990年」を感ずる。ウェールズ公妃や、『銀河英雄伝説』のマリーンドルフ嬢、そしてこれは伝わらぬだろうが、往年のキャスター・べヴェル・メンソールのcmに出ていた女優が脳裡…

ヴェンダース『パリ、テキサス(Paris,Texas)』1984

ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)監督作。或る女性に薦められ鑑賞。云わゆるロードムービーで、1984年にパルム・ドールを受賞。 ナターシャ・キンスキーの代表作。画像は「或る男が、覗き部屋のマジックミラー越しに、別れた妻と再会している」場面。 ヴェ…

ウィルコックス『特殊工作員オデット(Odette)』1950

ハーバート・ウィルコックス監督作。アンナ・ニーグル主演。第二次世界大戦時、英国のエージェントとして占領下フランスで活躍したオデット・サンソムの実話に基づく作品。3人の子供を持つ「普通の」夫人が、いかに勇敢に戦争を闘ったか、という事が記録され…

ボーヴォワ『神々と男たち(Des hommes et des dieux)』2010

グザヴィエ・ボーヴォワ監督作。1996年のアルジェ、「ティビリヌの修道士殺害事件」を題材とする。テロに巻込まれ殉死する未来を覚悟して修道院に留まるのか、或いは去るのか。修道士たちが決断に至る過程を描く。カンヌでグランプリを受賞。 殉教した7名の…

『銀河英雄伝説 新たなる戦いの序曲』1993 クラシック曲一覧

ledilettante.hatenablog.com 劇場で観賞。『わが征くは星の大海』がテレビアニメに先駆けて公開されたのに対し、『新たなる戦いの序曲』はOVA第2期終了後、即ちラインハルトがキルヒアイス、アンネローゼと離別し、ヤン・ウェンリーに敗れ、虚しさの中で戴…

濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』2021

濱口竜介監督作。村上春樹の2014年の同名小説が原作。アカデミー賞国際長編映画賞はじめ、国際的に高い評価を受けた。 「意識高い系フランス映画」の不肖の弟子みたいな印象。意味深長を気取り、のっぺりとした進行にするのであれば、アラン・レネのように音…

黑澤明『生きる』1952

近々、黑澤明監督『生きる』のリメイク作品が上映される。カズオ・イシグロの脚本で、英国を舞台にした物語になるという。 本作品観賞中は、日本固有の、済度し難い不変の世相を見ている気分になる。しかし黒澤が作品中で痛烈な非難を浴びせる「死に際に後悔…

『銀河英雄伝説 わが征くは星の大海』1988

神の母聖マリアの祝日に、4Kリマスター版を池袋東宝で観賞。 4Kリマスターにすることで何がどう変わったのか、芸術的な向上はあるのか、正直よく分からない。徳間書店の商業主義の産物なんだろうなと思いつつも、やはり名作を大画面大音量で観賞できるという…

タルコフスキー『サクリファイス(Offret)』1986

本日は待降節第3主日、「喜び(Gaudete)の主日」。神父様は薔薇色のストラをまとう。入祭唱ではVeni, veni, Emmanuelが歌われた。 ledilettante.hatenablog.com 静謐な美を湛えたアンドレイ・タルコフスキー監督最期の作品。マタイ受難曲に始まり、終る。Vati…

市村崑『こころ』1955

市村崑監督作。夏目漱石の『こゝろ』が原作、森雅之が先生、安井昌二が私、新珠三千代がお嬢さん。やけに芝居臭い演出と思ったが批評家の受けは良かったそう。確かに、先生の遺書の場面になってからは面白かった。だが襖を開けるシーンは絶対に2度必要であっ…