寸鐵...短くて人の胸をつく語句。
ラ・ロシュフコー公爵は17世紀フランスの軍人、政治家。策謀の貴族社会に於いてリシュリュー卿やマザラン卿と対立し、辛酸を嘗めた経験を持つ。そんな彼の遺した箴言集、すなわち本書は、人生の真理を道破するものとして、古来高く評価されてきた。
全篇を通して犬儒的でさして面白くもない。いつの世も「箴言集」なんてものを遺すのは敗者である。敗者から学ばんとするより、勝利者(=イエス・キリスト)を師とする方が、悧巧ではないか?
選擇しなければならないのですから最善のものを擇びませう。そして「信仰」があらゆる現実の唯一の基礎であります以上、神を擇びませう、「学問」がその流儀でこのやうな現象の諸々の法則をわたくしに説明しても無益でございませう、依然としてわたくしは、その現象の中に、唯わたくしの魂を向上せしめ得るものをのみ観、魂を低下せしめ得るものを見ないでせうから。『トリビュラ・ボノメ』
ただ幾つか面白いマキシムもあったので、メモしておきたい。私は269.を大変気に入っている。
76. 沈黙は自身なき者の取る可き最も安全の策なり。
95.智力の欠点は顔面の汚点の如し、老ゆるに随ひて愈々殖ゆ。
108.奸策と背信とは、正直に世に處する能はざる不智短才の徒之を行ふ。
162.己れ只一人智からんと欲するは大愚のみ。
198.時としては、他人の意見を利用するの智は、自己の意見を立つるの智に譲らざることあり。
219.癡呆なる人々は決して誠実なるを得ず。
269.世には非理を忍ぶ能はざる人々ほど非理なる者はあらず。
304.愚物にして憖ひに多少の才気ある者ほど與し悪きはあらず。
370.哲人は勝つよりも戦かはざるに其知慧をあらはす。
431.英雄豪傑は大抵油画の如し、若し之を賞賛せんと欲せば、遠く離れて観ざる可らず。